『定本久生十蘭全集 11』久生十蘭(国書刊行会)

 月報は平田俊子ほか。

 翻訳・翻案を集めた本書のなかでは、ボアゴベ『鉄仮面』が圧倒的に面白い。良い意味で漫画的。てっきり涙香&乱歩の知名度だけで有名なのかと思っていましたが、少なくともこの十蘭翻案版『鉄仮面』は作品自体に魅力がありました。
 

「天啓」「夜の遠征」「犯罪の家」トリスタン・ベルナアル
 ――「奥さま、お話があったのですが、忘れてしまいました」「早く思い出しなさい」……

 戯曲コント3篇。
 

『ジゴマ』レオン・サヂイ
 ――ゲエリニエル伯爵に刺されたという供述を突然翻し、息を引き取ったモントレイユ氏……。探偵ポーランはそれを怪しみ、伯爵こそが真犯人だとにらむが……。

 通俗活劇。戦前は映画で有名だったらしい。
 

ファントマ第一』ピエール・スーヴェストル&マルセル・アラン

 ジゴマとファントマは涙香調・講談調。
 

『ルレタビーユ第一』ガストン・ルルウ

 ルルーのルールタビーユもの『黄色い部屋』『黒衣婦人の香り』の翻案。
 

ファントマ第二』ピエール・スーヴェストル&マルセル・アラン
 

『ルレタビーユ第二』ガストン・ルルウ
 

『鉄仮面』フォルチュネ・デュ・ボアゴベイ
 ――従兄妹のアルモアーズとテレエズたちは国王転覆を計画していたが、寸前で軍務宰相ルーヴォアや秘密探偵部長ナアロオに見破られ、一網打尽に会う。生き残ったテレエズが調べたところ、助かったのは一人だけで、鉄の仮面をかぶせられ牢に繋がれているという。仮面の男こそアルモアーズだと信じるテレエズは、鉄仮面の救出を企むが……。

 ボアゴベ『鉄仮面』。鉄仮面の正体が叛乱者の一人マルセル(・ダルボアーズ)というのは冒頭から明らかにされます。一介の叛乱者がなぜわざわざ鉄仮面をされたのかという事情が気になって読み進めました。

 表向きの理由は、一味の情報を手に入れる前に消されないために――ですが。小説的には、一味のメンバーと裏切者の二人のうちのどちらが生き残って幽閉されているのかが登場人物にはわからないようにするため。そのため、鉄仮面がソアッソン伯爵夫人の愛人なのか、反ルイ一味テレエズの従兄弟アルモアーズなのかがわからないまま、ソアッソン夫人とテレエズは協力して鉄仮面救出を企むことになります。そして顔がわからないということは、入れ替わりの可能性がつねにつきまとうことになるわけで、これについては読者にも伏せられているので、ぎりぎりまで意外性を楽しむことができました。

 実在した「魔女」ラ・ヴォアザンが、ピッコロや弥七ポジションで物語にからんできたり、舌のない密偵「百十六号」「六十六号」といった忍法帖のようなキャラが出てきたりと、相当に面白い作品でした。むしろデュマの『鉄仮面』より見どころは多いかも。

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