『リカーシブル』米澤穂信(新潮文庫)★★★★☆

 千里眼なんてあるはずがない――。

 だからそんな人間が登場しても大抵は何らかの仕掛けを疑ってしまいます。

 本書の場合、未来視の謎よりも、家庭環境に不安のある語り手の女子中学生が慣れない引っ越し先で人間関係にさらに不安を感じてゆく様子が切実に語られているので、未来視の謎というものも、いくつもの不安や違和感の一つでしかなく、読んでいてしらけるということがありませんでした。しかもデジャヴを経験するのは語り手自身ではなく、もともとフシギっ子なところのある小学生の弟なので、これまた突飛な言動の一つに紛れてしまいます。

 未来視は本当にあるのか(そういう世界の作品なのか)、何かのトリックが存在しているのか、それはひとまず保留のままで、未来視がきっかけで明らかになった過去の不審死の謎や、いなくなった父親や現在の家族のことや、クラス内政治からはずれまいと精一杯に行動する姿が、健気だったりドライだったりで、目を離せません。

 うっとうしい弟と、優しい母親を演じている母親。こんな二人と上手く生活しているのだから、主人公は強いな、と思います。「強くないから、強いふりするんでしょ!」とは言っても、それができるのはやっぱり強い。

 通常であれば探偵役が犯人に仕掛けるたぐいの罠を、犯人側が利用していたような構図(事件当時と同じような状況を作り、同じ行動をさせようとする)が面白かったです。それにしてもスケールが大きい。

 越野ハルカ。父の失踪により母親の故郷である坂牧市に越してきた少女は、母と弟とともに過疎化が進む地方都市での生活を始めた。たが、町では高速道路誘致運動の闇と未来視にまつわる伝承が入り組み、不穏な空気が漂い出す。そんな中、弟サトルの言動をなぞるかのような事件が相次ぎ……。大人たちの矛盾と、自分が進むべき道。十代の切なさと成長を描く、心突き刺す青春ミステリ。(カバーあらすじ)

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