『あと十五秒で死ぬ』榊林銘(東京創元社 ミステリ・フロンティア)★★★☆☆

『あと十五秒で死ぬ』榊林銘(東京創元社 ミステリ・フロンティア

 ミステリーズ!新人賞佳作「十五秒」を筆頭に、何らかの形で「あと十五秒で死ぬ」状況にある作品4篇が収録された短篇集です。そのため「たのしい学習麻雀」は収録されていません。
 

「十五秒」(2015)★★★★☆
 ――目の前に銃弾が浮いている。私に尻を向けて。銃弾の周りには赤い飛沫がまとわりついている。私は軌跡をたどり、それが私自身の胸の穴から出ていることに気付いた。「お迎えに上がりました」二足で立っている猫が現れた。「走馬灯タイムというやつです。いきなり後ろからズドンですから、長目に時間をご提供しようと」 つまり振り向けば犯人がいるのだ。残された寿命は十五秒。その間は自由に現実と走馬灯を行き来することができる。犯人の見当は付いている。まずは振り返って確認しよう……。

 第12回ミステリーズ!新人賞佳作。『ミステリーズ!』vol.74()で既読。死神のような存在と走馬灯の時間により、被害者による倒叙とでもいうべき独特の作風が確立されていました。被害者の薬剤師が残された十五秒で「いかにして」目的を実行するかだけではなく、「何がしたいか」も読者には隠されているため、犯人ともども読者も被害者の意図を謎解きしなくてはなりません。そしてそれが見事に作者の思う壺でもありました。死神が語るとおり、十五秒で何が出来るかにばかり夢中になって【第二の襲撃】を予期できませんでした。【罠として】用意されたダイイングメッセージというのも、ダイイングメッセージの性質として面白いものです。被害者の怪しい行動が反転することによって、誰も救われない悲劇が完成する結末も見事でした。
 

「このあと衝撃の結末が」(2020)★★★☆☆
 ――俺はテレビの音で浅い眠りから覚めた。姉が毎週欠かさずに見ている『クイズ時空探偵』だ。最終回のクライマックス、前向きに花火大会へ向かう主人公とヒロイン。そのとき家のインターホンが鳴った。父の声が聞こえる。鍵を忘れたらしい。俺は仕方なく玄関に行きリビングに戻ってくると、姉が勝ち誇ったように「このあと衝撃の結末が――」。見るとヒロインが息絶えていた。たった十五秒ほどのあいだに何が? 「この先の展開なんてわかりきってるって言ったよね。だったら予想できるんじゃない?」姉の挑戦を受けて、俺はオンデマンド配信でダイジェストを見た。主人公の探偵と過去へ戻る超能力を持つヒロインが、土地の〈呪い〉の謎を解こうとする話だ。

 作中作の謎解きなんてご都合主義になりがちですし、実際、人に知られなかったら過去に干渉できる(死ぬ直前の人だったり、他人に見られなかったり)という設定は語り手からもご都合主義と言われてしまっています。また、その性質上ただのクイズっぽくなりがちですが、実際クイズドラマという設定ですしね。ただ、この作品も「十五秒」と同様、姉の挑戦に夢中になっているとうっちゃりをくらってしまうように出来ています。ドラマの結末の真相はタイムトラベルかつドラマを活かした【※現代にいる主人公とヒロインと見せかけて、過去に行った主人公とヒロインの母だった】もので、過去に干渉できる条件もきっちり組み込まれていました。視聴者参加型の番組という設定を活かして枠外にも仕掛けを施しているなど、いろいろと凝っています。
 

不眠症(2021)★★☆☆☆
 ――身体が揺れてふと我に返った。カーラジオの単調な声色が再び私を眠りに誘う。「茉莉」。呼ばれて目を開けるとハンドルを握る女性が言った。「あなたと出会えて本当に幸せだった」。そのとき、視界に何か大きなものが映った。◆大きな音と衝撃で私は飛び起きた。「なっ……」ようやくここが私の部屋で、夢から覚めたばかりだと理解する。あの夢だ。昨日と状況は同じだが、母様の言葉が変わっていた。大げさな謝意だ。夢の中でも私は戸惑っていた。◆「茉莉」。私は助手席で目を覚ました。あの人は動揺していた。「あぁ……時間がない」。そのとき窓の外に黒い影が現れた。トラックが中央分離帯を乗り越えて来たのだ。◆眠ってしまえばまたあの夢を見るのではないか。私は日の昇るまで布団の上で震えていた。それからも毎日同じ夢を見た。大筋は同じだが細部が変わっていた。

 書き下ろし。茉莉が車の中で目覚めてから事故に遭うまでが十五秒という設定です。母様と二人暮らしの少女が、交通事故に遭う同じ夢を繰り返し見るホラーのような幻想小説のような内容で、いかにも謎解き小説といった前二作とは作風が違いすぎて戸惑ってしまいました。他三作と比べても凝った仕掛けはなく、【事故で死んだ母親の亡霊が十五秒で娘に伝えたいことを試行錯誤して何度も夢に出てくる】というものでした。
 

「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」(2021)★★★★☆
 ――俺たち赤兎島の島民は首が取れても死なない。頸部に強い力がかかると首脱する。一歳以上離れていない者同士なら首の交換もできる。だが正確に言えば、首と胴体が十五秒以上離れると死ぬ。島外不出の秘密だ。駐在警官だけは島の出身ではないため、祭りの首芸を見られないように、住民が架空の事件を持ち込んで足止めしている。ところが祭りの翌日、神社の倉庫から首のない焼死体が発見された。学生服を着ていたが損傷が激しく身許を特定できない。そして高校一年の三人が行方不明だった……。祭りの夜、休憩所で休んでいた俺は、何者かに襲われ首を落としてしまった。だが死の間際、同級生の公がやって来て自分の首とすげ替えてくれた。しばらくすると智大もやって来た。俺たちは十五秒以内に首を交換しながら、犯人を推理することにした。ところが智大は所詮他人事なのかひょいといなくなることもあった。

 書き下ろし。当初こそ首が取れても死なないという設定に呆れてしまいましたが、いざ事件が起こってしまえばそんなことは気になりません。設定の奇抜さに気を取られてしまいそうになりますが、語り手(克人)が襲われた理由【※人違い】や、殺人と放火の【実行犯が別人】であることなど、古典的とも言える真相はスマートです。克人が襲われるに至った事情と公の姉の死の真相、公の姉の死をめぐって二重の意味を持たせているのもよく考えられていました。その一方で首取れ族(?)であることを活かしたのが、放火犯失踪の謎です。手段も動機もほかでは考えられないもの【※倉庫内で取り外した首を小窓から外に出し、予め置いておいた別の胴体にくっつけて脱出。身体能力に優れた身体が欲しかった】ですが、どうして気づかないのかという無理を通すために【赤ん坊のころに体を交換されていた】ということにしたのが、いたずらに複雑だと感じました。むしろ首取れ族ならではと言うと、その後の強引な解決策に魅力とインパクトがありました。

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