『S-Fマガジン』2020年8月号No.740【特集・日本SF第七世代へ】

 先月号から通常月販売に戻っていたことに気づきませんでした。雑誌コーナーではなく『三体』コーナーに置いてありました。
 

「日本SF第七世代へ」
 当たり前ですが執筆者のほとんどはハヤカワSFコンテスト出身者なので、新人ばかりの割りには既視感しかありませんでした。もっと幅広い出身者を集められなかったのは、新型コロナのせいで準備不足なのか、それとも「第七世代」とぶち上げておきながら実は人材の層は薄いのか。

「親しくすれ違うための三つ目の方法」高木ケイ
 ――色々なものが取り残されているこの街で、UFOのノンフィクションを書きたい僕は……(袖惹句)

 ゲンロン出身者。「君は僕にとって最高のエイリアンだ」。この台詞に作品の気持ち悪さが集約されています。SF者のこうした気持ち悪さだけは第一世代からちっとも変わっていません。思春期を描けば多かれ少なかれ気持ち悪いものになるものなのでしょう。
 

「それでもわたしは永遠に働きたい」麦原遼
 ――技術の発達によってホワイトな労働を突き詰めた先に広がる、想像もつかない光景とは(袖惹句)

 ゲンロン出身者。こういうあからさまに諷刺っぽいのはイマイチです。
 

「花ざかりの方程式」大滝瓶太
 ――桜塚展開2次の項には花が咲く。そしてミサとサクのきょうだいは死圏を夢見る。(袖惹句)

 「数理SFと純文学を行き来する作風」だそうです。ラノベ寄りではなく理系オタク寄りなところにどちらかというと創元系っぽさを感じます。円城塔ほどぶっ飛んではいません。
 

「この世界、そして意識――反出生主義のユートピア(?)へ」木澤佐登志
 評論。編集部の惹句も気持ち悪いし、大丈夫なのか?と心配になります。

「Re: Re: Enchantment」青山新
 デフォー『ペスト』と時代論。

「かたる、つくる――デザインとSFの交差する場所で」佐々木未来也
 デザイナーが語る、デザインとSFの行き着く場所。

「プログラムの保存先」田村俊明
 ゲームレビュー。

「異常進化するバーチャルアイドルVRVTuber の新たな可能性―」届木ウカ
 VTuberによるVRVTuber論。

フェミニストたちのフェミニズムSF」近藤銀河

 

「また春が来る」草野原々
 ――小説が生まれる過程には四季がある。物語情報力学SFにして、きっと一種の私小説(袖惹句)

 ハヤカワSFコンテスト『最後にして最初のアイドル』受賞作家。
 

「おくみと足軽」三方行成
 ――その名の通り、大名は大きくて、足軽は軽いのである――お江戸ロボットエンタメSF(帯惹句)

 ハヤカワSFコンテスト『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』受賞作家。
 

「乱視読者の小説千一夜(66)コロナの時代の読書」若島正
 

「書評など」
 今月は気になるものはありませんでした。
 

「クーリエ」劉慈欣/泊功訳(信使,刘慈欣,2001)★★☆☆☆
 ――バイオリンを弾いていた老人は階下にいる聴き手に気づいた。ここ数日、ふたつのできごとが老人を不安にさせていた。ひとつは量子論。もうひとつは原爆だ。それは実に短くシンプルな公式だった。バイオリンに耳を傾けていた青年は、老人の一日を予言し、細い糸のついたバイオリンを老人に貸した。

 『三体』の劉慈欣の読み切り第二弾。未来から来た青年がとある科学者に伝えたメッセージ……ですが、わざわざ来るほど……?
 

「SFの射程距離(5)身体という「距離」を超える」南澤孝太

「SFのある文学誌(71)奇跡の不在――続・三島由紀夫長山靖生

大森望の新SF観光局(73)『アンドロメダ病原体―変異―』と『三体II 黒暗森林』の関係」
 

ピグマリオン〈前篇〉」春暮康一
 ――自分の精神世界を可視化し体験できる装置〈ピグマリオン〉。機械がもたらす彼と彼女の未来とは……。(袖惹句)

 ハヤカワSFコンテスト「オーラリーメイカー」出身者。
 

『牛の王(冒頭)』津久井五月
 ――西暦二〇五四年、カシミール。その工学者が追い求めた研究者とは――第二長篇冒頭先行掲載(袖惹句)

 ハヤカワSFコンテスト『コルヌトピア』出身者。
 

「Executing Init and Fini」樋口恭介
 ハヤカワSFコンテスト『構造素子』出身者。

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