『冬雷』遠田潤子(東京創元社)★★★★☆

 真琴のことが好きだった夏目代助は、愛美がストーカーの果てに自殺したことを愛美の兄・龍から今でも恨まれていた。行方不明だった義弟の千田翔一郎の死体が発見され、代助はかつての養父たちの住む町に戻って来た。愛美とのことで町ではあらぬ噂を立てられ、千田家からも絶縁されていた代助は、翔一郎に最後の別れをさせてもらうこともできなかった。

 鷹匠の家の者(代助)と神社の者(真琴)とは一緒になれない。そんな大時代的な町が舞台になっているのですが、現代が舞台であるにもかかわらず、そうした前時代的で因習のはびこった町の描写に違和感を感じさせません。横溝正史作品のようなどろどろした異世界(?)の村を設定しなくとも、こういう世界を描けるんですね。

 中盤は過去パート。如何にして破滅が訪れたかが描かれています。噂や思い込みや共同体の損得勘定だけで動く日常生活もさることながら、中学から高校に上がっても人間関係は変わらない、なんて細かいところに田舎のいやらしさのリアリティを感じます。

 そして舞台は再び現代に。翔一郎を殺したのは誰か? 不自然な愛美の日記と遺書に隠されているのは? 愛美の真琴への態度が変わったのはなぜか?――

 明らかになる真相は、これまでのせっかくの現実らしさをぶち壊すような、どろどろ系の事実でした。人一人の尊厳どころか命よりも、共同体の安定を望もうとするところは薄ら寒くなります。構成する個々人ではなく、システムや組織そのものを愛する人というのはどこの世界にもいるものです。「どちらを選んでも間違えた」――人一人のプライドや選択なんかではどうせ変わらなかった……と思えば気は安まるでしょうか……。

   


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