『L'Assassinat du Pont-Rouge』Charles Barbara,1855年。
“フランス版『罪と罰』”というのは単なるキャッチコピーなので措いておいて。
金のために自分を殺して働いているだけで恩人をすら軽蔑しているというのは、極端ではあるけれど、むしろ大多数の人間に近いようにも思います。芸術に生きている人間こそ稀でしょう。
一方で、ばれなければ罪を犯してもよいというクレマンの主張は、キリスト教圏の読者が読むほどの衝撃はないようにも思います。哲学というか、ただの犯罪者ですよね。
実際、信念の人というよりは、なんだか言い訳ばっかりな感じになっちゃいますし。
ただし異様な高揚に駆られた告白場面には必読の迫力がありました。憑かれたように饒舌にまるまる一章を費やされる告白には、魅入られたように引き込まれてしまいます。『罪と罰』というより『マクベス』を連想しましたが。
観念的な部分ではなく、飽くまで実録ふうの部分が面白いというのは、著者からすれば本意ではないのでしょうが、仕方のないところです。
19世紀中葉のパリ。急に金回りがよくなり、かつての貧しい生活から一転して、社交界の中心人物となったクレマン。無神論者としての信条を捨てたかのように、著名人との交友を楽しんでいた。だが、ある過去の殺人事件の真相が自宅のサロンで語られると、異様な動揺を示し始める。(カバーあらすじ)
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