『S-Fマガジン』2023年02月号No.755【AIとの距離感】

『S-Fマガジン』2023年02月号No.755【AIとの距離感】

「AI絵本 わたしのかきかた」文:野﨑まど/絵:深津貴之、「メイキング・オブ・AI絵本」深津貴之
 当然ですがAIといってもSF小説に出てくるような完全自律型ではなく、人間が細かく条件を入力して出力された厖大な結果のなかから選んだ画像からさらに条件を絞り込んでゆく――ということをひたすら繰り返す……ということのようです。

 そこまでしても絵本全体で統一感を出すのは現時点では難しいようです。1ページ目、2ページ目は絵本タッチのイラストなのに、4ページ目5ページ目の機械となるとどうしてもリアルな質感の絵になってしまうようですし、5ページ目では恐らく機械のタッチに引きずられて生き物までリアルなタッチになっていました。3ページ目の植物や遠景なんて完全にヒエロニムス・ボスまんまです。最後のページの生き物の目にもボスっぽさがモロに出てしまっていますし、深津氏が言うように「複数オブジェクトの扱い」になると微調整が利かないのでしょう。そうは言っても〝現時点では〟の話だとは思いますが。
 

「純粋人間芸術」安野貴博★★★☆☆
 ――「AIが登場した当初から、アート業界ではAIの支援を受けた作品は排除された。そんな中、スキャンダラスな研究が発表された。AIを使わずに作った作品であっても、AIの作品から大きな影響を受けている傾向があると証明されてしまったんだ。だがAIが介入している作品はアート業界では認められない。だから私はAIに〈汚染〉されていない人間を探していた。〈汚染〉されていない芸術家は、AI登場前から昏睡状態だった君だけだ」

 アート業界とAIに限らず、既存の者たちが新しいものに拒否反応を示すのはありそうなことです。AIを利用したこととAIの影響を受けていることを同列に考えるのはいくら何でも硬直的すぎると思うのですが、そうした硬直性もまたありそうなことではあります。AIを汚染と呼ぶ人々に対し、AIに初めて触れた語り手がそこに芸術の可能性を見る対比が鮮やかです。実際にどうなるのかはまだわかりませんが、やはり現実にも可能性は広がるのでしょうね。
 

「たべかたがきたない」斧田小★☆☆☆☆
 ――アートAIの公式大会に参加した日本人たちの混乱の裏で何かが動き始める(袖惹句)

 
 

「踊り、語り、創る」長谷敏司×大橋可也×遠藤謙
 ――

 
 

「仁義なきママ活bot」竹田人造★★☆☆☆
 ――川守組若頭の宇納は目の前の青年を測りかねていた。先代組長の甥・安海がママ活botの教育係を持ちかけてきた。宇納がiモバイル時代にサクラの帝王と呼ばれていたのを知ってのことだ。相手を見極め、瞬時に理想の女性を作り上げる技、男心をくすぐるメッセージ。詐欺と知ってなお関係の継続を求める相手がいるほど完璧な腕前の持ち主だった。

 題材は面白いのにコメディとして中途半端。
 

「AI小説の現場から」大曽根宏幸×葦沢かもめ

「伝統的無限生成装置」品田遊★★★★☆
 ――検閲部の樋口は前任者から国民的長寿アニメ『サンサイさん』の担当を引き継いだ。古き良き日本の大家族を体現した山野家は、宇宙を漂う庶民の手本となるべき家族像を担っている。アニメ事業部を訪れた樋口が次回放送分として監督の雪村に見せられたのは、『ツクシ、分裂する』という異様な内容だった。「ここではAIが認める表現しか生成できないが、逆に言いうとAIさえ認めさせられればいいんだよ。ツクシくん2体は呼び出せなくても、鏡に映ったキャラクターは別のキャラクターと認識されるんだ」雪村が部内で楽しむためだけに作った作品を、樋口が没にする。

 AIに設定されたルール内でバグのように遊ぶという、今現在の発展途上のAIでもみんながやっているような遊びを、厳格に道徳や規則が定められた世代宇宙船内の長寿アニメ番組と組み合わせたもの。サザエさんという時代遅れを逆手に取って、手本というところに落とし込んだのが可笑しかったです。
 

「SF作家×小説生成AI/メイキング&感想戦柴田勝家「The Human Existence」、小川哲「凍った心臓」、Sta
 柴田勝家氏の作品は「AIが人間の振りをして生きている」という情報と一章のみ書いて、あとは出力を繰り返したとことん調整したということで、ちゃんと小説の結構が取れています。小川哲氏の作品は、1ページ分までは小川氏が書いた内容をうまく引き継いでいたのですが、そこから先はなぜか文体も内容もまったく無関係の支離滅裂な話になってしまいました。開発者のSta氏によると、「たぶんこれは設定の繰り返しペナルティを上げている」から「それまでの展開のベクトルから離れようと」した結果だそうです。
 

「開かれた世界《オープンワールド》から有限宇宙へ」陸秋槎/阿井幸作訳(从开放世界到有限宇宙,陆秋槎)★★☆☆☆
 ――私がシナリオを担当しているスマホゲーム「アイリス騎士団」は決して失敗作ではないが、会社では新規プロジェクトに予算のほとんどが注ぎ込まれている。そのプロジェクトチームのリーダー宮前から、なぜか私は呼び出された。宮前が言うには、オープンワールドゲームで最も大切なことは、リアルな世界だと感じてもらうことだが、光源の移動には膨大な演算能力が必要なため、スマホでは実現不可能である。ついては、日中に太陽がピタリと動かず、十二時間経ったら昼と夜が一瞬にして切り替わる現象に合理的な説明をつけてほしい。そこで天文学科出身の私に白羽の矢が立ったということらしい。

 おかしな状態にむりやり理屈をつけるというミッションは、さすが麻耶雄嵩に影響を受けた著者らしいものですが、すっきりする結末が用意されているわけでもないですし、AIも関係ありませんでした。
 

「家だけじゃ居場所《ホーム》になれない」L・チャン/桐谷知未訳(A House is Not a Home,L Chan,2021)★★☆☆☆
 ――〈ホーム〉は日課を始める。割れた窓はそのままになっている。〈あるじ〉が去ってしまった以上、今は基本を優先すべきだと判断する。〈あるじ〉を連れ去った者たちに絵画は引き裂かれてしまった。午後はメンテナンス作業を行う。〈ホーム〉は回線経由で当局の捜査を受ける。当局はカメラをスキャンしログを見てわかっていることをなぜ何度も尋ねるのか。

 AIに感情があるわけではなく、AIのプロセスに人間が感情を読み取ってしまうのだろうとは思いますが、それでも何かがあるのかもと思いたくなります。
 

「SF BOOK SCOPE」
『ifの世界線 改変歴史SFアンソロジーは、斜線堂有紀、宮内悠介ら5人によるifもののアンソロジー。ほかに早瀬耕『十二月の辞書』、小川哲『君のクイズ』

『竜愛づる騎士の誓約』喜咲冬子は、オレンジ文庫という少女向けライトノベルレーベルからのファンタジーのようですが、結構ハードな感じっぽく気になります。

◆「BOOK GUIDE」欄に掲載されていた『ニャタレー夫人の恋人 世界文学ネコ翻案全集』というのが気になったので確認してみたら、著者は『もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら』という『文体練習』のパロディみたいな本も出しているようです。
 

「文体の翻訳。僕が愛するチャック・パラニュークのスタイルとリズム」深見真

バーナード嬢曰く。特別篇」施川ユウキ
 『ファイト・クラブ』のチャック・パラニュークの新作『インヴェンション・オブ・サウンド』刊行に寄せてのエッセイと漫画でした。
 

大森望の新SF観光局(87)ロズウェルへの長い道」
 コニー・ウィリスの新作について。
 

「忘れられた聖櫃――ボットたちの叛乱――」スザンヌ・パーマー/月岡小穂(Bots of Lost Ark,Suzanne Palmer,2021)
 ――再起動したボット9は、艦内の全ボットが起こした誤作動を解決できるのか。(袖惹句)

 2019年2月号掲載の「知られざるボットの世界」の続篇。
 

「SF翻訳に絶望なんてしてません」鳴庭真人
 先月号で古沢嘉通大森望が書いていたらしい、若手のSF翻訳者が育っていないという危機意識に対する、若手からのアンサー
 

「日本SF作家クラブ歴代トップ座談会」池澤春菜×榎木洋子×藤井太洋×林譲治
 2014年の大森望入会お断わり事件をきっかけに、ようやく法人化の話が出てくるって、何かもういろいろとひどいですね。。。法人化後の会長お三方の苦労が偲ばれます。

「SFこわい」西武豊
 第12回アガサ・クリスティー賞受賞記念エッセイ。
 

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