『いつか、ふたりは二匹』西澤保彦/トリイツカサキノ絵(講談社ミステリーランド)★★★☆☆

 同時期に出た森博嗣探偵伯爵と僕』となぜか事件の内容が似てしまっています。偶然なのか、それとも当時現実にモデルになるような似たような事件でも起きていたでしょうか。

 こちらは主人公の精神が猫に憑依するというファンタジーですが、甘いところは微塵もありません。猫に憑依したおかげで自由に捜査することができるものの、そのせいで恐ろしい目に遭う羽目になります。森作品と同様に、現実の容赦のなさを思い知らされます。

 それでもまだ、森作品の場合はあることを隠すことによって、西澤作品の場合は動物の肉体を通すことによって、取り返しのつかない残酷さがある程度でも和らげられているところに著者の心遣いを感じます。

 菅野智己は母が再婚した四年生の頃、突然、眠りに就くことで猫の身体に乗り移れるという不思議な能力を持った。身体を借りている猫にジェニイという名前をつけ、巨大なセントバーナード犬のピーターと友達になった智己が六年生のとき、クラスメイトを含め三人の女子児童が襲撃されるという事件が発生し、一人が重態に。昨年秋に、同じく町内で起きた女子児童誘拐未遂事件の犯人と同一人物の仕業のようだ。被害者の共通点は、智己の義理の姉久美子さんが家庭教師だということ! 智己はジェニイになって、ピーターとともに事件を調べることにした。(函あらすじ)

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『探偵伯爵と僕』森博嗣/山田章博・絵(講談社ミステリーランド)★★★★☆

 ミステリーランドのなかでは、もっとも子どもに向けて(子ども向けという意味ではなく)書かれている作品でした。死刑制度の問題、人が人を殺すという問題、ミステリィと現実の違い、ゲームやクイズと現実の違い……伯爵の正体について思わせぶりにしておきながら結局は正真正銘の探偵だったというのも、情報に惑わされるな、真実を見通せる目を持てというメッセージと捉えられなくもありません。わたしたちは少年探偵団のような安全圏に生きているわけではないのだから。

 伯爵の正体自体が曖昧模糊としていて、そのために事件の性質も日常の謎なのか誘拐なのか何なのかもはっきりしないので、探偵ものの謎解きミステリとはひと味違った読み心地がありました。

 夏休み直前、新太は公園で出会った、夏というのに黒いスーツ姿の探偵伯爵と友達になった。奇矯な言動をとるアールと名のる探偵に新太は興味津々だ。そんな新太の親友ハリィが夏祭りの夜に、その数日後には、さらに新太の親友ガマが行方不明に。彼らは新太とともに秘密基地を作った仲間だった。二つの事件に共通するのは残されたトランプ。そしてついに新太に忍びよる犯人の影!(函あらすじ)

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『七月に流れる花』『八月は冷たい城』恩田陸/酒井駒子・絵(講談社ミステリーランド)★★★☆☆

 自然消滅したかと思われていた〈ミステリーランド〉の最終配本。

 7・8とタイトルにあるので心配ないとは思いますが、読む順番を間違えるとネタバレになってしまうのでお気をつけ下さい。

 恩田陸らしい、閉ざされた空間内での少年少女たちの日々が幻想的に描かれています。作風は幻想的ながらも謎はきちんと明らかにされますが、その明かされ方があっけなくて尻すぼみな印象を受けてしまいました。唐突に明かされるSF的/ホラー的な設定も取ってつけ感があまりにも強く受けつけがたいものでした。

 謎なんか解かれなければいいのに。

 亜季代が失踪した理由や、光彦がみどりおとこにされた忠告など、すっきりしないところが多々ありました。

 少年少女たちの不安を、身近な死と連動させて描くことで、横溢する不穏な空気をただの雰囲気だけに終わらせていないところは見事というほかありません。

 同じ「お城」内の、『七月』が少女パート、『八月』が少年パートになっています。

 坂道と石段と石垣が多い町、夏流《かなし》に転校してきたミチル。六月という半端な時期の転校生なので、友達もできないまま夏休みを過ごす羽目になりそうだ。終業式の日、彼女は大きな鏡の中に、緑色をした不気味な「みどりおとこ」の影を見つける。思わず逃げ出したミチルだが、手元には、呼ばれた子どもは必ず行かなければならない、夏の城――夏流城《かなしろ》での林間学校への招待状が残されていた。ミチルは五人の少女とともに、濃い緑色のツタで覆われた古城で共同生活を開始する。城には三つの不思議なルールがあった。鐘が一度鳴ったら、食堂に集合すること。三度鳴ったら、お地蔵様にお参りすること。水路に花が流れたら色と数を報告すること。少女はなぜ城に招かれたのか。長く奇妙な「夏」が始まる。(『七月に流れる花』函あらすじ)

 夏流城《かなしろ》での林間学校に初めて参加する光彦《てるひこ》。毎年子どもたちが城に行かされる理由を知ってはいたが、「大人は真実を隠しているのではないか」という疑惑を拭えずにいた。ともに城を訪れたのは、二年ぶりに再会した幼馴染の卓也、大柄でおっとりと話す耕介、唯一、かつて城を訪れたことがある勝ち気な幸正だ。到着した彼らを迎えたのは、カウンターに並んだ、首から折られた四つのひまわりの花だった。少年たちの人数と同じ数――不穏な空気が漂うなか、三回鐘が鳴るのを聞きお地蔵様のもとへ向かった光彦は、茂みの奥に鐘を持って立つ誰かの影を目撃する。閉ざされた城で、互いに疑心暗鬼をつのらせる卑劣な事件が続き……? 彼らは夏の城から無事に帰還できるのか。短くせつない「夏」が終わる。(『八月は冷たい城』函あらすじ)

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『しちふくじん』立川志の輔・作/中川学・絵/倉本美津留・監修(岩崎書店 お笑いえほん)★★★☆☆

 放送作家が監修した〈お笑いえほん〉シリーズの一冊。ほかに笑い飯川崎タカオ板尾創路片山健もあるようです。

 中川学のイラスト目当てで購入しました。ストーリーは立川志の輔の落語「七福神」がもとになっているようです。

 これまで泉鏡花柳田國男といった怪奇幻想系の絵本で魅力を発揮してきた中川氏なので、笑いに関してはやはりミスマッチだと感じてしまいました。

 それでも、都会の上空を飛んでやってくる宝船や、靴を脱いで(脱ぎ散らかして)部屋に上がる七福神など、ファンタジーに現実感を導入して異空間を作りあげているところは見事というほかありません。

 神頼みをしたあとチャイムに応えてドアを開けようとするシーンは、怪談ではないのに妙に怖い雰囲気に満ちていました。
 

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 しちふくじん お笑いえほん2
 

『その雪と血を』ジョー・ネスボ/鈴木恵訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ1912)★★★★☆

 『Blood On Snow(原題Blod på snø)』Jo Nesbø,2015年。

 ポケミスなのに一段組の薄い形での登場です。映画化がすでに決定しているようです。

 七〇年代ノルウェーを舞台に、パルプ・ノワールを再現した作品、とのことですが、血と暴力というよりはファム・ファタルを中心にした甘ったるい純愛と裏切りの物語で、そのいい女っぷりと駄目男っぷりは戯画かと思うほどのコテコテぶりなので、ターゲットに一目惚れちゃうところまでは正直ゲンナリしてしまいましたが、そこから物語が動き出してからは、最後まで減速することなく一気に読ませてしまいます。

 そもそも主人公はただ単に惚れっぽいわけではなく、もともと優しすぎるのか弱すぎるのか何も考えてないのか、自分を殺そうとした殺し屋(の家族)に同情(?)を寄せるような人らしいのです。好きというよりは、弱い立場の人間を見ると正常な判断を下せなくなってしまうらしく、そうした主人公の現実の見えてなさが、終盤になってぽろぽろほころびてゆく過程が哀しみを誘います。

 オーラヴ・ヨハンセンは殺し屋だ。この数年間、麻薬業者のボスに命じられて殺人を引き受けてきた。今回の仕事は、不貞を働いているらしいボスの妻を始末すること。いつものように引き金をひくつもりだ。だが彼女の姿を見た瞬間、信じられないことが起こる。オーラヴは恋に落ちてしまったのだ――。葛藤する彼の銃口は誰に向かうのか。放たれた弾丸が首都の犯罪組織を大きく揺るがす……。雪降りしきる70年代のノルウェーを舞台に、世界で著作累計2800万部を突破した北欧ミステリの重鎮が描く血と愛の物語。(裏表紙あらすじ)
 

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 その雪と血を
 


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