『ナボコフ短編全集 I 』より。
ひたすらかっこいい。青くて若くてセンチメンタルと言われようが、よいものはよいのだ。残酷なくらいがよいのだ。愚かなくらいでよいのだ。
「ぼくは君の背中を、君のブラウスの市松模様を見守っていた。階下のどこからか、たぶん中庭からだろうか、農婦の野太い声が聞こえてきた。「ゲロシム、ほら、ゲロシム!」
そして突然、ぼくにはこの上なくはっきりとわかったのだ。この世界が何世紀にもわたってずっと花咲き、萎れ、回転し、変化してきたのは、ひとえにこの瞬間に、階下で鳴り響く声と、絹のような君の肩甲骨の動きと、松の板の匂いを組み合わせ、溶け合わせて、一つの垂直な和音を生み出すためだった、ということが。」
-----------------------
ナボコフ短篇全集 1
posted with 簡単リンクくん at 2005.11.11