『龍臥亭幻想』(上・下)島田荘司(光文社カッパ・ノベルス)

 まあいろいろ言いたいところはあります。でもちょっと『占星術』を思わせるようなところもあったりして、それだけでうれしくなってしまう。惜しげもない大トリック二つ。さすがに最後の手記に書かれた犯人の行動の不自然さ(犯人自身も指摘しているが)にはちょっと首肯しかねるところもあるけれど、死体隠しの方は見事の一言。「幻想」の名に恥じません。ああ、こういうのを納得させてしまうところが島田ミステリだよなあとしみじみ思いました。

 ま、細かいことはいろいろと……。『龍臥亭事件』のころの石岡はまだかろうじて御手洗シリーズのころの石岡だったし、里美もかわいいもんでした。本書はその後に新たに書かれる石岡&里美シリーズという似て非なるシリーズ作品の一つですね。そこらへんが御手洗シリーズのファンにはしんどい。

 あとはねぇ。出版社の惹句とかならともかく、著者のことばで著者自身が「異邦の騎士再び」なんて書いたらだめでしょうが。売らんがための方便と思われても仕方がない。

 いちばん気になるのは最後にちょろっと出てくる吉敷です。お前そんなに頭よくなかっただろっ! なんでそんなにすぐ解決できちゃうんだよ。違和感バリバリだぁ。吉敷は根性でがむしゃらなのがよかったのになあ。これじゃあ個性の薄い御手洗ではないか。しかし吉敷と石岡はこれが初対面なのか。作者自身の手によりいわば公式に「発狂する重役」が御手洗シリーズ番外編ではないとされてしまったのがショックだった……。

 真っ白な装丁にイラスト帯がかっこいい。

 石岡和己、犬坊里美、そして加納通子――。雪に閉ざされた龍臥亭に、八年前のあの事件の関係者が、再び集まった。雪中から発見された行き倒れの死体と、衆人環視の神社から、神隠しのように消えた巫子の謎! 貝繁村に伝わる「森孝魔王」の伝説との不思議な符合は、何を意味するのか! 幻想の龍臥亭事件が、いま、その幕を開ける。

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