『五つの箱の死』カーター・ディクスン/西田政治訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ0320)★★★☆☆

 『Death in Five Box』Carter Dickson,1938年。

 瀬戸川猛資氏が『夜明けの睡魔』で趣向に触れ、それが『ミステリ・ハンドブック』にも再録されたので着想だけが有名になった感のある本書です。今ならバカミスと呼ばれる類。バカミスとはいってもカーの場合笑わせようと思って書いているわけではないので、イマイチな読後感が残るだけの作品になってしまった。

 犯人はともかく、殺害方法は面白い。なぜ四人のうち三人が毒を盛られ、一人が刺殺されたのかという謎。飲み物にもカップにも毒が検出されなかった謎。この二つはけっこう魅力的。毒の謎の方はすでに古典的なので新味はないかもしれないけれど、その謎を刺殺の謎と絡めて提示するあたり、やはりカーは見せ方がうまい。

 ただ、昔のポケミスなので訳がひどい。意味がわからない文章も多いし、一人の人物が場面によって丁寧になったりガラが悪くなったりする。カーのなかでは物語自体が面白い方なのかどうか、これでは判断がつかなかった。

 サンダース博士は朝の一時、研究室を閉めた。ある毒殺事件の報告書を作るため遅くまで顕微鏡と取組んでいたのだ。小雨の降り始めた道を歩いていた博士は、十八世紀風の赤煉瓦の家の前に佇んでいた若い女に不意に呼びとめられた。そして雲をつかむような話ながら乞われるままにある家の内部に入った彼が見たものは……煌々たる灯りの下で四人の人間がテーブルに向かっていたが、その内の三人は毒か薬のために意識不明、最後の一人は細長い刀で背中を刺されて既にこと切れていたのだった。H・M登場の本格物。
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