『探偵小説と二〇世紀精神 ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?』笠井潔(東京創元社)★★★★☆

 探偵小説についての評論ほど面白いものはない!と言ってしまう。なにしろ30章全編が名探偵の推理によるクライマックスなのだ。こんなことを言うと、探偵小説内における「探偵の論理」と「現実の論理」を一緒にしてもらっちゃ困ると怒られるかもしれないけれど、じっさい面白いのだから仕方がない。

 特に前半の作品論・作家論は秀逸。クローズド・サークルというキーワードを軸に『そして誰もいなくなった』[bk1amazon]から『シャム双子の謎』[bk1amazon]へと進み、論理的不備というキーワードで『ギリシア棺の謎』[bk1amazon]へとつながり、そこからまた『シャム双子』へと還り、ひいてはクイーン論へと展開されてゆくスリルときたら、巻措く能わずです。

 後半は第三の波、いわゆる新本格についての考察。独裁国家において探偵小説が排除されるのは文化的競争者だからであるという説は面白いし、日本の文化・芸術シーンには歴史的・思想的なタイムラグがあるという指摘も実例を示されると説得力がある。だけど個人的には第三の波よりも、そのあとの脱格系の方に興味がある。これを本格ミステリの流れの中で把握しきれるのか。笠井氏は最近かなり積極的にゲームやアニメの考察もおこなっているから、そのあとで最終的にまとめられた脱格系についての結論をはやく読んでみたい。それと第三の波については、十年後二十年後に機会があれば何度でも考察してほしい。笠井氏自身が二・五波ということもあって、このあたりの正確な考察はまだ時期的に難しいんじゃないかと思ったので。それよりはまだ、笠井氏とはまったくつながりのない脱格についての考察の方が、快刀乱麻を断つが如き考察をばっさばっさと期待できそう。

 笠井×法月対談も収録されていて、それを読むと前半の執筆時期と『オイディプス症候群』[bk1amazon]改稿時期が一致していることとかがわかって得した気分。
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