『ミステリマガジン』2006年6月号【特集=鉄道ミステリの旅】★★★★☆

特集 鉄道ミステリの旅
 鉄道ミステリというと、時刻表をめぐる退屈なアリバイミステリというイメージがあったけれど、今回特集されているのは広く鉄道・線路が舞台となったミステリすべて。古典から幻想作品まで幅広く収録されてました。出来不出来・好き嫌いの差が大きかったけれど、いいものは総じてよかったです。

「オークハンプトン線の殺人」ヴィクター・L・ホワイトチャーチ/駒月雅子(The Murder on the Okehampton Line)★☆☆☆☆
 ――オークハンプトン線で殺人! 最終列車が終点に到着すると、一人の男性客がすでに死亡しており、鋭利な凶器で心臓を一突きされていることが判明した。金品は奪われていないことから物取りではないと思われる。

 古典も古典、古典的きわまりない古きミステリ。ドイル「時計だらけの男」をちょっとだけ連想した。
 

ウィローデイルのトロッコまたはブラック・ドールの帰還」エドワード・ゴーリー/濱中利信訳(The Willowdale Handcar or the Return of the Black Doll)★★★★★
 ――ウィローデイルの夏の日、エドナ、ハリー、サムの三人は、何かないかと駅までやって来た……。

 哀しくて謎めいて不気味なゴーリー。素敵だなぁ。「羨ましげに」とか「半狂乱の」とか書かれていながら、実際の絵は無表情なんですよね。そこがなんとも冷たくって魅力的でいい。一枚だけみんなそろって微笑んでいる絵があって、それがとんでもなく不気味で恐ろしく感じてしまう。
 

「七時十六分発の殺人」マイクル・イネス/高橋知子(Murder on a 7.16)★★★☆☆
 ――お世辞にも車輛とはいえない客車のセット。映画「七時十六分発の殺人」撮影中に、監督がセットの中で殺された。

 殺人すら茶化してしまってるラストは困ったものだけどなぁ……。わたしとしては悪戯好きな方のほうに一票入れたくなってしまいました。いくら度を過ぎる悪戯とはいえ。悪意のあるドッキリカメラは好きじゃないけど、機知のある芸人の悪戯は好き。
 

「コールマンの泣きどころ」マイクル・ギルバート/三角和代訳(The Coulman Handicap)★★★★☆
 ――強盗犯人はどうやって盗品を手放すか? コールマン夫人に連絡を取るのだ。あとは夫人が故買屋に話をつけてくれる。警察は夫人を尾行していた。

 ペトレラ刑事の尾行の様子が、緊迫感がありつつ何とものどかで愉快。通りすがりを装うために女の子と仲良くなったり、タクシー・ドライバーと意気投合して運ちゃんの方が張り切っちゃったり。前号の特集を読んだときは気づかなかったけれど、こういうちょっとすっとぼけたキャラの魅力っていかにもイギリスらしい気もします。
 

「旅は道づれ」エリザベス・ウォルター/尾之上浩司訳(The Traveling Companion)★★☆☆☆
 ――同行する男はティムと名乗った。「みんな困難を克服するんです」 ジェニファーは、デイヴィッドを思うたびに衝突事故のことが蘇ってくるのだ。デイヴィッドはもういない。

 もう最初っからネタは割れてわかりきっている話なんだけれど、それを補って余りあるほどの内容ではなかったです。解説によるとイギリスの怪奇小説作家らしいのだけれど、プロパーにしてはもうちょっとどうにかしてほしかった。ネタは割れているから謎めかしは効果的じゃないし、死とか心的外傷とか快復に関する車中の会話も退屈だし。

「死の決断」ウィリアム・F・ノーラン/高山真由美訳(Death Decision)★★☆☆☆
 ――母親は棺の中で花に埋もれて横たわっているはずだ。父親を見ながら思った。お前が母さんにしたことを、ぼくや妹にしたことを、ぼくは恨んでいる。

 子どもの視点で書かれているせいで、虐待親から逃れる話ではなく、何でも他人のせいにする今どきの子どもの話に読めてしまった。むしろそういう話なのだろうか。思いつきと思い込みだけで行動を起こす問題児。
 

「電車ちがい」フェニー・コルガン/上條ひろみ訳(The Wrong Train)★★★★☆
 ――こんなに遅くなってしまった。地下鉄で帰るしかない。車輛は半分ほど人で埋まっていたが、どこかおかしかった。結局、今夜見たことは口外しないでほしいと釘を刺されて途中で降ろされた。

 邦題からユーモアものかと思っていたら社会派だった。でも解説を読むと「コミカルな筆致で人気」と書かれているな。なんでもありの無茶苦茶な話ではあるけれど。わたしとしては、あるはずのない地下鉄、ヴィクトリア・ホールの舞台へと出る抜け道、黙ったまま座る青ざめた乗客といった怪奇幻想的なシーンに惚れ込んでしまいました。M16機関の職員による一人称、時代がかった動機というやりすぎにも思える設定、地下鉄内でのアクション、ささやかなロマンスといった映画的なサービスも含めて、娯楽度満点の作品でした。
 

「鉄道ミステリの楽しみ」小山正

 鉄道ミステリとは時刻表ミステリだというわたしの先入観を打ち破ってくれました。鉄道・列車・線路が登場すればそれすなわち鉄道ミステリ。いいかげん?(^^;

「映画と小説で鉄道ミステリを語ろう」松坂健&小山正

 主に映画。『オリエント急行殺人事件』をはじめとした別格は別として、たいていは鉄道シーンのある映画ということになるんじゃないでしょうか。主要脇役傑作駄作に関わらず思いつくままに鉄道の出てくるミステリ映画というと……『明日に向って撃て!』の列車強盗、『スティング』でロネガンを釣るポーカー勝負、『スピード』のラスト、ぐだぐだの『シベリア超特急』、『あぶない刑事』にも伊武雅刀の出てくる映画版があったと思う赤井英和が出てるやつ……日本では松坂氏が挙げていた『天国と地獄』が印象深い。

「地下鉄でめぐるNYミステリ書店ガイド」小山正
 ほとんど小山氏の趣味じゃないか。なんだこりゃ。仕事を利用しやがってと思う反面、趣味でやってるだけに楽しさが伝わってくるのでした。

「列車は運命のごとく駆ける」有栖川有栖、「わが鉄道ミステリ・ベスト10」折原一、「鉄道ミステリとのおつきあい」種村直樹
 折原一氏が乱歩の押絵と旅する男bk1amazon]や島田荘司『奇想、天を動かす』bk1amazon]を挙げていて、ほほぅなるほど、という感じ。
 ここまでが鉄道ミステリ特集。
 

「ミステリアス・ジャム・セッション第61回」渡辺球
 日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作家です。『象の棲む街』bk1amazon『俺たちの宝島』bk1amazon]。日本ファンタジーノベル大賞は新人賞の中では是が非でも読みたい作品が多いのに、けっこう前の『ラス・マンチャス通信』すらまだ読んでない……。『鉄塔武蔵野線』もまだだ……。いや、もったいなくて読めないんですよね……。

「〈ギャンブル・アンソロジー〉ができるまで」結城信孝
 「泥くささを感じさせるもの(日本的なもの、と言いかえてもよいが)は極力排除した」そうなので、意外と面白そうかもしれない。とは言ってもなぁ……収録作家の顔ぶれがあまりにも当たり前すぎてつまらん。第三巻のゲーム編がいろいろあって面白そう。

「夜の放浪者たち――モダン都市小説における探偵小説未満 第18回 内田百けん東海道刈谷駅」(後編)」」野崎六助
 盲人の視点に立った小説「東海道刈谷駅」についてです。事故で亡くなった友人の、事故の真相を再現していこうと努める――これを探偵の捜査に近似するというのは、そう言えば言えなくもないという程度であって、その意味では確かに「探偵小説未満」なのだけれど、そんなことはどうでもいいくらい熱い小説です。抜粋して引用されているのを読んでいるだけでも、緊張感がひしひしと伝わってくる。

「新・ペイパーバックの旅 第3回=ハメットとの初めての出会い、新たな出会い」小鷹信光
 エドマンド・ウィルスン。昨今のおばかさん系の評論家・小説家とは違って、ミステリは読めないけれど小説は読める人だった。ハメットは「ケインよりずっと下のスタウトよりもさらに低い」そうです。『マルタの鷹』一つだけ見ればそう言われても仕方ないかな、とも思いますが。

「英国ミステリ通信 第90回 ミステリの女王対談」松下祥子
 P・D・ジェイムズとルース・レンデルの対談の一部が紹介されています。評論とかエッセイとかじゃなく対談だから仕方がないとは言えるけれど、女王様が底の浅いことを言っております。

「ヴィンテージ作家の軌跡 第38回 レナードの十則(前編)」直井明
 スヌーピーの「暗い嵐の夜だった」てのは元ネタがあったんだ、というレナードとは関係のないところに反応。よくない小説の書き出しとして有名になってしまったブルワー=リットンの『ポール・クリフォード』からだそう。

「MWA賞の映画誌 第47回=2000年」長谷部史親
 『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』『クッキー・フォーチュン』『ラン・ローラ・ラン』『リプリー

「瞬間小説 32」松岡弘一

「冒険小説の地下茎 第74回 アジアの深き闇」井家上隆幸
 船戸与一『河畔に標なく』

ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか? 第98回 『蒲団』と言い落としの技法」笠井潔
 なにも『蒲団』が特別なわけではなく、多かれ少なかれ小説であれば使っている技法なのだけれど、昔も今もお題目のように、すべてを赤裸々に書いた私小説とか言われて評価されてきた『蒲団』について論じるから意味がある(のでしょう)。この技法に自覚的であるか否か。ミステリ作家は当然、自覚的なわけで。

「今月の書評」など
「ミステリ文庫通信」からは『神のはらわた』ブリジット・オベールbk1]。あほくさい設定の「笑えるサスペンス」だそうです。

オットー・ペンズラーが、ウールリッチの短篇集を紹介しています。ウールリッチのマイナーな作品を集めた本は、むしろ日本の方がリードしているんじゃないかと思います。ポケミス、創元の傑作集、白亜書房の傑作短篇集、集英社文庫名探偵コレクション、新樹社の短篇集と非ミステリ長篇、晶文社『さらばニューヨーク』……と、現在でもあらかた手に入るんんじゃないでしょうか。

フィルム・ノワールとジャズを論じた『Jazz Noir』デイヴィッド・バトラー、映画版『レント』、赤狩りとテレビを描いた映画『グッドナイト&グッドラック』、ミラ・ジョヴォヴィッチ主演の『Ultraviolet』はどんななんだろう……副枢機卿なる者が出てくるところを見れば『スター・ウォーズ』系なのかな。歴史SFじゃないよな。

 最近は、興味のないシリーズものの新作意外は、なるべくポケミスを買うようにしている。そんなポケミスの新刊が白薔薇と鎖』ポール・ドハティ[bk1amazon]。買ったけど未読(順番待ち)。『青チョークの男』フレッド・ヴァルガス[bk1amazon]は、あらすじ読んだらいかにもミステリでしょ、をアピールしてるみたいで敬遠していたのだけれど、「なんとも掴みが巧み」で「レギュラー陣との再会が楽しみ」だそうです。むむむ。

『聖なる暗号』ビル・ネイビア[bk1amazon]は、「帯で『ダ・ヴィンチ・コード』に触れたくなるのも無理はない」キリストにまつわる、暗号を取り入れたサスペンス。どちらかといえば次に紹介されている琥珀蒐集クラブ』ティーヴ・ベリー[bk1amazon]に興味を持っていたのだけれど、ベテランと新人の差、だそうで、こっちの方がちょっと落ちるらしい。

 ウッドハウス『ウースター家の掟』bk1amazon]を読んで、引用の多さに少しうんざりしたのだけれど、そうか読む人が読むとニヤリとさせられるのだな。

クリストファー・ムーア『アルアル島の大事件』bk1amazon]。「実にくだらない話で、たいへん好感が持てる」という紹介のされ方が作品のすべてを言い表しているような。くだらない=◎なんですね。

 ポケミスでは花崗岩の街』スチュアート・マクブライド[bk1amazon]も刊行。

 小玉節郎「ノンフィクションの向う側」今回は『万物の尺度を求めて』ケン・オールダー[bk1amazon]。これは早川書房の新刊案内ですでに目にして気になっていたのだけれど、子午線の四千万分の一が一メートルなのだから、計測が正確であれば子午線の長さは四千万メートルのはず、ところが……という紹介文を読むとますます読みたくなってくる。

 風間賢二「文学とミステリのはざまで」は『トラヴェラー』ジョン・ホークスbk1amazon]。『ダ・ヴィンチ・コード』の編集者が手がけた最新作、だそうです。映画化も決定ということで、ヒットしそうです。あらすじを読むかぎりは小説よりも映画向きな感じ。風間氏はやたらと皮肉ってますが、悪くはなさそうです。

 

「隔離戦線」池上冬樹関口苑生豊崎由美
 池上氏の一言。「本屋大賞も終わりだな」。いやそれをいうなら第二回ですでに終わってました。恩田陸はすでにベストセラー作家だったでしょう。受賞したと聞いたとき、えええっと思いましたよ。

「誌上討論/第4回 現代本格の行方」我孫子武丸二階堂黎人
 『容疑者Xの献身』論ひとまずの総括。

「翻訳者の横顔 第78回 我輩はカモである」中原裕子

「夢幻紳士 迷宮篇 第4回=吸血鬼」高橋葉介
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  ミステリマガジン 2006年 06月号 [雑誌]

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