ヤング・アダルト・ノベル特集だというので、ラノベ特集かよーと思ったのだけれど、日本のYAではなく海外のYAのことでした。海外児童文学特集。
「My Favorite SF」(第6回)上遠野浩平
コードウェイナー・スミス『鼠と竜のゲーム』。未読だけど、きっと紹介されているとおりの作品なのでしょう。本当にスキャナーに生きがいはなく、黄金の船は「おお! おお!」というしかないような。
「高橋葉介『夢幻紳士』への招待」
これまでの『夢幻紳士』シリーズをまとめた簡単な解説と紹介があります。ちょろっと紹介されている『逢魔篇』[bk1・amazon]妖怪図鑑の女版「毛羽毛現」のビジュアルがヤバイ。石燕のオリジナルの雰囲気を保ちつつ完全に新たな妖怪になっています。「手の目」とか「件」はアニメチックすぎるし、「牛鬼」は狩野派の絵巻まんまだったりもするのですが。
【ヤング・アダルト・ノベル特集】
「サンバード」ニール・ゲイマン/日暮雅通訳(Sunbird,Neil Gaiman)★★★☆☆
――あらゆるものを食べ尽くしてしまった美食家クラブの面々は、サンタウンのサンバードを食べにエジプトに向かった。どこかでその名を耳にした覚えがあるのだが……。
ヤング・アダルトなのに子どもが主人公じゃないのはめずらしいような気もする。というかあんまりヤング・アダルトじゃない気もする。強いていうならYA版異色短篇? よく考えてみれば(考えなくても)、青少年期の悩みや不安や希望を描かなくても、YA向けに書かれたのならYA作品なのだ。「ヤング・アダルト」ということばに先入観を持っていたのでちょっと違和感がありました。
「魔女の自転車」ティム・プラット/石井庸子訳(Witch's Bicycle,Tim Pratt)★★★★★
――コーリーはバス停でロッコにからまれた。逃げ場はない。「ねえ、何してるの?」女の子の声がして、ヘザーがやってきた。収まらないロッコの前に、くすんだ赤ずくめの自転車乗りの女が現れた。
不死をめぐる魔女の企みを描きながら、同時に魔女というのが悪意や成長のメタファーでもあったりする。だから結末は残酷なまでに現実的で、魔法使いもののファンタジーだと思って安心して読んでいたら愕然としました。自転車にまたがるえんじ色の魔女という設定が意表をついていて新鮮。主役はさえない男の子に好意を持つ実は美少女という、アニメやらラノベ系の登場人物ではあるのだけれど、文章がしっかりしてるのでそれはあんまり気にならない。
「少年が死体で見つかって」クリストファー・バルザック/小川隆訳(Dead Boy Found,Christopher Barzak)★☆☆☆☆
――おふくろが飲み屋に向かう途中、ルーシーという酔っぱらい女と正面衝突してしまった。学校では、行方不明だった男の子が線路に埋まっているのが発見された話題で持ちきりだった。
これはちょっと気持ち悪い。わたしはこの作品には共感できなくてよい。映画でいえば『ドニー・ダーコ』[amazon]あたりの妄想系ネクラ内省ファンタジー。『ドニー・ダーコ』の場合はジェイク・ギレンホール&ジェナ・マローンの魅力と脚本&監督の力があったけれど、本篇にはそれがない。いろんな思いを整理できない思春期のどろどろの精神状態をうまく描いているとも言えるが。
「特集解説 新しいヤング・アダルトの世界」小川隆
ヤング・アダルトについてではなく、どちらかといえばヤング・アダルト・ファンタシイについての話です。あるいはファンタシイ作家がいかにしてヤング・アダルトも手がけるようになったか。間接的とはいえSFが売れなくなったのがYA隆盛の原因というのは何だか寂しい。
「ヤング・アダルト・ノベルブックガイド」香月祥宏・他
『コララインとボタンの魔女』ニール・ゲイマン[bk1・amazon]が怖そうでよい。どこにも通じていないはずのドアの向こうにいた人々は、みな目がボタンだった。
『魔法の眼鏡』ブレイロック[bk1・amazon]は、〈プラチナ・ファンタジイ〉の一冊です。〈プラチナ・ファンタジイ〉はすべて買っているのだけれど、これだけはベタなユーモアものっぽくて買うのやめたのだった。世界幻想文学大賞受賞作家のジュヴナイルで、中村融訳、か。そう聞くと食指が動く。
『肩胛骨は翼のなごり』デイヴィッド・アーモンド[bk1・amazon]は、天使(?)のダンス・シーンがよかった記憶がある。小説を読んでいて情景が映像として目に浮かぶことはめったにないのだけれど、このシーンは鮮やかに浮かび上がりました。ウィリアム・ブレイクを口ずさむ女の子もかっこよかった。内省的な感じの著者の作風自体はどちらかといえば苦手なのですが。
『不思議を売る男』マコーリアン[bk1・amazon]は表紙イラストの書影がかっこよく見えたのだけれど、amazon で大きなサイズのを確かめてみるとそうでもなかった。でも内容はかなり面白そう。ガラクタばかりの古道具屋。男はそのガラクタの由来をまことしやかに語り始めるのだった。
『魔法の声』コルネーリア・フンケ[bk1・amazon]。著名なドイツ児童文学者だとか内容がどうだとかはまず措いておいて、表紙がいい! ホラーじゃないんだよね……? 素敵だ。
ここからは内容どうこうよりも表紙が気になった本。『秘密が見える目の少女』コーバベル[bk1・amazon]は、いかにも超能力少女っぽいイラスト。でもこれも白黒の書影で見るといいのだけれど、実際にカラーで見るとそれほどでもないんだよな……。白黒で見ると暗くて幻想的な話に見えるけど、カラーで見ると明るいファンタジーに見える。『錬金術』マーヒー[bk1・amazon]は驚くほどに地味な装丁の本。いいね。岩波えらい。これは本屋で実際に紙の手触りとかも確認してみたい。
スティーヴン・キング、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ、『ライラの冒険』あたりは説明不要の有名どころ。
『トリポッド』ジョン・クリストファー[bk1・amazon]は、西島大介のイラストで買った。ぜひ帯付きで揃えたくて(笑)。異星人とのバトルものSFという、まっとうな冒険児童文学。愛蔵版も出してほしい。
『ぼくがウィリアムと名づけたわけ』リンダ・ケンプトン[bk1・amazon]は、タイムトラベルSF。弟の誕生を受け入れることができずに怒りを貯めていた少年がゆりかごに触れた瞬間、十七世紀のイームスにいた。そこは後世、ペストと戦った村として伝えられる場所だった。
ここまでが【ヤング・アダルト・ノベル特集】。
「ダ・ヴィンチさん」キット・リード/浅倉久志訳(Mister da V.,Kit Reed)★★★★☆
――この十五年間ずっとパパはそのことを計画していたらしかった。レオナルド・ダ・ヴィンチがこの家にやってきてルネッサンスの頂点をわかちあってくれる。でもママはお客さんに我慢ができないみたいだったし、パパはダ・ヴィンチさんをネタにした論文のことしか頭にないみたいだった。
ドメスティックSF。家族それぞれ、ダ・ヴィンチよりもタイム・トラベルよりも重大なことがあるみたいで……。そんなものかもしれない。ウォード・ムーア「ロト」[bk1・amazon]にも、核戦争が起こるというときに電気代の心配をする母親が出てきました。そう考えると「ロト」も読みどころは、ホロコーストSFというよりドメスティックSFだったりするのかもしれない。本篇からは、両親の危機とひとりぼっちのダ・ヴィンチさんを静かに見つめながらも何もできない少女の、悲しさとかもどかしさとかが伝わってくる。そしてこの時期のことは“家庭の危機”だったにもかかわらず、“素敵な思い出”にしてしまえる子どもの才能がうらやましい。
「SFまで100000光年 34 雑貨は判ってくれない」 水玉螢之丞 こじゃれた雑貨屋なんて雑貨屋じゃない!というこだわり(?)あふれる歪んだエッセイ(^^)。
「残像」佐竹美保《SF Magazine Gallary 第6回》
佐竹美保というと、ポプラ社の怪人二十面相シリーズの挿絵を担当している佐竹美保氏と同一人物だろうか。怪人二十面相の挿絵は、ほかに古くささ満点の藤田新策氏、現代的すぎる佐藤道明氏、が担当していたけれど、佐竹氏の絵は切り絵調のもので、絵柄は現代風なのだけれど雰囲気は古びていて、オールドファンにも現役の子どもにもどちらにも好まれそうな作品でした。
「残像」という名の通り、龍をかたどった舟と船頭のシルエットが、時を経てやがて、オブジェに挑むドン・キホーテ(?)騎士の姿へと変じます。
「カズオ・イシグロ最新長篇『私を離さないで』」
新刊案内ですねー。二ページ(実質一ページ)にわたる詳しい紹介です。
「GONZOフェスタ2006開催」
うーむ『巌窟王』はともかく『七人の侍』をSFアニメリメイクですか。『サムライ7』。大胆。そして『ブレイブストーリー』。この夏公開。
「MEDIA SHOW CASE」矢吹武・小林治・添野知生・福井健太・宮昌太郎・佐々木敦
むむむのむ。今回はあまり気になる映像作品がなかった。地上派テレビ米ABC制作の「マスターズ・オブ・サイエンス・フィクション」くらいでしょうか。ハインライン、ブラッドベリ、ハーラン・エリスン、アシモフの作品を映像化。劇場公開されるのか日本で放映されるのかもよくわからないけれど、気にはなります。
もはや複合機が当たり前の時代、ゲームがゲームである根本が問われるそうです。これはほかのジャンルにもいえることですね。そのジャンルがそのジャンルである根本。
音楽ではYMOのライブにもゲスト参加していたキーボーディスト橋本一子の『Ub-X』。SF/幻想文学のファンなのだそうです。
「SF BOOK SCOPE」石堂藍・千街晶之・長山靖生・他
『地球の静止する日』[bk1・amazon]が紹介されてました。これ、すごくいいです。ハインラインは好みではありませんでしたが、これぞSFって感じの、小難しいこと抜きにしたエンターテインメントSFの魅力がぎっしりと詰まってます。『ミステリマガジン』2006年6月号で風間賢二がヤング・アダルト向けと評していた『トラヴェラー』[bk1・amazon]を、林哲夫氏は「ライトノベル的」と評していました。なるほど風間氏もそういう意味で「YA」という言葉を使っていたのかもしれない。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『バビロンまでは何マイル』[bk1・amazon]について石堂藍氏は、「このシリーズが書き継がれれば、ジョーンズの代表作の一つになるのではあるまいか」と述べていました。辛口というイメージのある石堂氏が誉めているのは信用できそう。デイヴィッド・マレル『トーテム』は、「苦悩のオレンジ、狂気のブルー」の著者なので気にはなっていたのだけれど、笹川吉晴氏の紹介を読むかぎりでは何だかしんどそうな話である。買うのはやめとく。
長山靖生氏が『美は乱調にあり、生は無頼にあり 幻の画家・竹中英太郎の生涯』[bk1・amazon]を紹介しています。これは紹介されなきゃ気づかなかった。挿絵ありなのかな。そこが気になる。画集が絶版の今、ビジュアルページが多ければ迷わず買う。絵がなくてもほしい本ではある。
森山和道氏が『眼の誕生』を紹介。これはいろんなところで紹介されてますね。『マラケシュの贋化石』とか『万物の尺度を求めて』とか、最近は科学系ノンフィクションの当たり年? 面白そうな本が多い。
「小角の城」(第5回)夢枕獏
「罪火大戦ジャン・ゴーレ」(第17回)田中啓文
「おまかせ!レスキュー」96 横山えいじ
「デッド・フューチャーRemix」(第52回)永瀬唯【第10章 ジュール・ヴェルヌ、ルナティクス 第9射】
前回に引き続きジュール・ヴェルヌとホーランドについて。そしてナショナリズムと帝国について。
「私家版20世紀文化選録」90 伊藤卓
『猫語の教科書』『やっちまったよ一戸建て!!』『悪霊になりたくない!』
「SF BOOK SCENE」小川隆
ジョー・ヒルのデビュー短篇集『20th Century Ghosts』はホラー短篇集。ホラーが苦手な人でもホラーファンでも楽しめるそう。異常心理や犯罪が中心に描かれると聞くとつまらなさそうだが、「映画館に出没する幽霊を少年時代に目撃したことが理由で、成長して成功したのち、その映画館を買い取って再建する男を描いた表題作」等々ひとつひとつのあらすじは面白そうなのだ。ホーリー・フィリップスの『In the Palace of Repose』もチェック。
「MAGAZINE REVIEW」〈F&SF〉誌《2005.10/11〜2006.2》香月祥宏
ビーグル「ふたつの心」は『最後のユニコーン』の続編。ジーン・ウルフやテリー・ビッスンの新作も掲載。
「SF挿絵画家の系譜」(連載3 依光隆)大橋博之
ペリー・ローダン・シリーズの挿絵画家。このかたは現役なんですね。
「サはサイエンスのサ」137 鹿野司
ま、今までの速度がおかしかっただけであって、まともに戻るともいえる。経済的には大打撃だろうが。
「センス・オブ・リアリティ」金子隆一・香山リカ
パワード・スーツが徐々に実用化に向かってきたようです。オタク文化の潮流に生まれたときからつかってきた世代が働き盛りになり、もはやSF方言も一般名詞にすぎない、と。「「ロボットスーツHAL」――こういう名前をつけてもみな納得する時代なのである――」だそうです(^^)。
就職と「やりがい」。時期的なテーマです。注目を浴びることだけが「やりがい」ではないと思いつつ、立場上「やりがいのなさそうな仕事を選ぶくらいで、ちょうどいいんだよ」とも言えずだそうです。
「開拓者」井上裕之《リーダーズ・ストーリイ》
この方、以前にも掲載されてましたね。常連さんなのかな。
「近代日本奇想小説史」(第48回 代議士作家の描いたユートピア日本)横田順彌
今回はあんまり面白くなかった。これまではたがのはずれたほんとにへんちくりんな話が多かったのに、これは埋もれるべくして埋もれた失敗作ゆえのヘンてこ。
「イリュミナシオン 君よ、非常の河を下れ」(第6回)山田正紀
「ザ・ホルトラク」ケリー・リンク/柴田元幸訳(The Hortlak,Kelly Link)★★★★☆
――終夜営業のコンビニは、何でも揃った一個の有機体だった。チャーリーは出勤途中に犬を乗せて車で通りかかった。ゾンビたちはガラクタを置いて意味の通らない言葉を残していった。
ゾンビの言葉や行動がわからないのは、死と生の意味なんかわかるわけがないからで、コンビニが明るいのはただの客寄せ、輝きなんかじゃない。
「チャーリーはギリシア悲劇の登場人物みたいに見えた。エレクトラとか、カッサンドラとか。たったいま誰かが彼女の愛する都市に火を放ったみたいに見えた。」という一文が印象的。
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