【女性作家特集】
少なくともフィクションの世界においてはもはや女性も男性もないと(一読者としては)感じるのだけれど、いまだに「女性作家特集」と聞くと佳品が多そうだと期待してしまうし、「男性作家特集」というのがないことに違和感も感じない――というのは、やはり“違い”があるのでしょう。
とはいえ、今回の特集ではそんなフェミニズムとは一見無縁でニュートラルな作品が掲載されていました。
「しばしの沈黙」ケリー・リンク/柴田元幸訳(Lull,Kelly Link,2002)★★★★★
――俺たちは地下室でカードをしていた。さっきから、前ではなく後ろに進むものの話をしていた。タイムトラベラー。俺たちみたいにドツボにはまっていない連中。回文の音楽が流れ続ける。エドがテレフォンセックスにダイヤルした。セクシーな話だけじゃない、何でも頼んだ話をしてくれるんだ。エドが言う。「チアリーダーと悪魔の話が聞きたい」
現実とファンタジーの境界がすっかり溶け合ってしまう話を書くのが、ケリー・リンクはほんとうにうまい。テレフォンセックスの女の子が、自分が語る「悪魔とチアリーダー」の物語の中で、作中作としてエドの人生を語り出すシーンには鳥肌が立ちました。さらに作中作のエドが語る作中作……。「俺たち」という語り手がいつの間にか消えているのも、すごく不思議な感じがする。もしかすると、すべてはスーザンの見ていた「最高の夢」だったのだろうか? 戻れない時間を取り戻したい人間の見た、逆回しの夢。「タイムマシン作ればいいじゃないの!」というスーザンの最後の言葉が印象的です。これが夢なら時系列なんてそもそも関係ないのだけれど、夢じゃないならこのスーザンの言葉こそが始まりで冒頭こそがタイムマシン。
「すれちがう人々」小谷真理
評伝の刊行されたばかりのジェイムズ・ティプトリー・ジュニアに関するエピソードを中心に、これまでのフェミニズムSFをざっと復習しています。『F&SF』誌に掲載されたティプトリーとC・L・ムーアの往復書簡にも言及されていて、これも訳載してほしかったなと思う。2006年9月号掲載じゃあ時間的に無理か。
「アイリーン・ガン・インタビュウ――先端を追い求めて」ローカス編集部/幹遙子訳
「12篇のスパイス――『遺す言葉、その他の短篇』を味見する」
「キッチンでひとりきりで」アイリーン・ガン/幹遙子訳(Alone in the Kitchen,Eileen Gunn,2005)
マイクロソフトに勤めていたアイリーン・ガンのインタビュー。9月発売の邦訳短篇集『遺す言葉、その他の短篇』内容紹介。「コンピュータと自由とプライバシーについての会議」十五回大会での発言(をもとにしたエッセイ?)。
「女の国へと至る道」おのうちみん・「男性として、居心地よく」海老原豊――〈ウィスコン30〉レポート
フェミニズムSFコンベンション〈ウィスコン30〉の様子を女性と男性の視点から報告。ミーハー的なおのうち視点からは会場の雰囲気が伝わってくるし、奇をてらわない報告スタイルの海老原視点からは議論の内容が明らかにされる。
「地上の働き手」マーゴ・ラナガン/市田泉訳(Earthly Uses,Margo Lanagan,2004)★★★☆☆
――おじいは、おれを起こすなり、こう命令した。「天使を一匹見つけてこい! ばあさんはもう長くない」と。おれはおばあに目をやる。おばあの病気が空気を腐らせている。チーズをやって天使を家につれてこなければ。峡谷にたどり着くと叫び続ける。天使がやかましい音を立てておりてきた。熱気と臭いがぶちあたる。腕はないけれど翼はもちろんついている。
解説者によると、「天使を異形のものとして扱うなど、日本のマンガの影響も受けている」のだそう。異形の天使というとナボコフやガルシア=マルケスの短篇を連想してしまうのだが、よく考えればあれはそもそも天使ではなく、翼を持った生物にすぎないのかもしれん。本篇では“天使のようなもの”ではなく“天使そのもの”が異形のものとして描かれています。SF・ファンタジー系の漫画を読まないせいでよくわからないので、日本のマンガ(アニメ?)の影響をほかにもいろいろ具体的に指摘してほしかった。いつともどこともしれない世界で微妙にスライドして描かれる現実。
「天使と天文学者」リズ・ウィリアムズ/日暮雅通訳(Tycho and the Stranger,Liz Williams,2003)★★★☆☆
――チコ・ブラーエがわたしを必要としていたことはたしかだった。自分でいうほど計算能力は高くない。わたしヨハネス・ケプラーのほうがすぐれた天文学者であることは二人とも知っていた。だがこんな問題も、天使の到来で払いのけられてしまった。月の観測をしているとき、上から見つめていたのが天使だった。ばちあたりなチコは、天使を捕まえて保存した。解剖すれば世界の秘密がわかるというのだ……。
「世界の秘密」という、いかにも錬金術めいたバタ臭い言葉の出て来るファンタジー。科学のトピックをファンタジーで証明してしまおうという発想が面白い。もちろん歴史改変ファンタジーみたいなものはたくさんあるわけだけれど。本篇がちょっと違うのは、天使が知恵をもたらしたのではなく、“吹っ切る”きっかけにすぎないというところ。でもたぶんそれがいちばん大事なことなのだ。
「小熊座」ジャスティナ・ロブスン/小野田和子訳(Littre Bear,Justina Robson,2005)★★★★☆
――ヴァイオレットは夜空を見ながら考えた。夫ガイとの距離に比べれば、外宇宙の広さなど無に等しい。彼が死んだとは思ってない。時空連続帯のどこかに、ガイはまだ存在している。――「弁護士がそろそろ死亡宣告してはと言っている」ガイの言葉にラファエラは宣言した。「サインはしないし、家も絶対に売らない。母さんが知ってる唯一の場所なのよ。あたしたちがいなかったら、戻ってきたときどうするのよ?」
「多世界解釈により世界が分裂した場合、その世界がまたいつか(どこかで)交錯する可能性はないのだろうか」というモチーフを使った短篇だそうです。本篇で描かれている世界に限れば描かれているのは二つの世界だけのはずなのだけれど、ヴァイオレットの視点、ガイの視点、さらにはヴァイオレット側のラファエラの視点、ガイ側のラファエラの視点、アランの視点が代わる代わる描かれることで、実際以上に大きなスケールの世界観を堪能できました。無限増殖し、すれ違い続ける宇宙。「(ジェイコブズを思い出した人はかなり性格が悪いです)」(^^;という切ないラストも必見。
ここまでが【女性作家特集】でした。
「My Favorite SF」(第10回)牧野修
牧野氏のお気に入りは沼正三『家畜人ヤプー』。世紀の奇書も前世紀の奇書になってしまったとはいえ、このすさまじさはあと100年経っても超えられないのではとも思う。
「みちのくSF祭 ずんこんレポート」
「ずんこん」の「ずん」は「ずんだもち」の「ずん」だとか。レポートとは言ってもほんとにさらっと紹介されているだけなので、ほとんど何もわからないと言ってもいい。そこが残念。
広告ページに論創社の〈ダーク・ファンタジー・コレクション〉のラインナップが掲載されているのだけれど、なんとも微妙なラインナップだ。たとえばスレッサーはたしかに嬉しいんだけれど、いまさらスレッサーをハードカバーで¥2,100出す気になるかというと……。悩みどころなのである。
「SFまで100000光年 38 宇宙クジラの味」 水玉螢之丞
魚がかかったのかな?ただの海藻かな?ていう表情と「釣り味」のハナシ。そういうのをリアルタイムテレビなんか応用できないかな、というハナシ。
「金魚」橋賢亀《SF Magazine Gallary 第10回》
びっくり箱みたいな帽子をかぶった王様、帽子から聳える家並みは王の国土。だから彼はおもちゃの王様。邪悪でキュートな道化。そばかすの王女(?)。おののき揺らぐ神と世界の表現が秀逸。はからずも今月号には異形として描かれた天使が登場したけれど、《SF Magazine Gallary》には異形の神が登場します。そして金魚。これは伊邪那美命ですね。黄泉の亡者どもを引き連れた亡霊。
「マン・マクラウドが奏でる「社会派」スペース・オペラ『ニュートンズ・ウェイク』交響楽」
「トップをねらえ2!その長き旅の終わりに」
「MEDIA SHOW CASE」矢吹武・小林治・添野知生・福井健太・宮昌太郎・西島大介
◆矢吹氏が取り上げている映画は『日本以外全部沈没』。『いかレスラー』や『ヅラ刑事』の監督かぁ。なんか納得。
「SF BOOK SCOPE」石堂藍・千街晶之・長山靖生・他
◆風野春樹氏が日本沈没&小松左京ものを紹介。
◆前回の特集だったダン・シモンズ。林哲矢氏がさっそく『イリアム』を紹介。そうなんだよなあ、「解決には続篇『オリュンポス』を待つことになる」んですよね、刊行予定は来年なんですよね……。
◆笹川吉晴氏が紹介しているジョン・ソール『ブラックストーン・クロニクル』。『ミステリマガジン』でも紹介されていましたが、なんか気になる。理由は『グリーン・マイル』と同じ分冊刊行形式だけじゃないと思うのだけれど、特に好きなタイプの話でもないんだけどなー。
◆ほかに牧眞司氏紹介のパノス・カルネジス『石の葬式』、長山靖生氏紹介の小松左京『SF魂』、森山和道氏紹介のマイケル・コロスト『サイボーグとして生きる』など。
「小角の城」(第7回)夢枕獏
「罪火大戦ジャン・ゴーレ」(第21回)田中啓文
「おまかせ!レスキュー」100 横山えいじ
「乱視読者のSF短篇講義」若島正(第2回 スタンリイ・G・ワインボウム「火星のオデッセイ」)
最新の科学知識を作品に取りこみながらも、「どういうわけか人間と心が通い合うエイリアン」を登場させる娯楽SFとしての「限界」。いまもスペース・オペラやジャンル・ファンタジーではこれが当たり前に信じられているわけだし、それが古典の古典たるゆえんでしょう。もっと快刀乱麻を断つのを期待していたのでちょっと肩すかし。
「デッド・フューチャーRemix」(第55回)永瀬唯【第11章 きみの血を 第3滴】
日本だけにしかない血液型占いの起こりって、実はデュンゲルンの初期研究をもとに「人格や性格、能力にもたらす影響」に注目した軍部にあるのでしょうか。今回は、当時のそれなりの最新科学をもとにした、血液型にまつわるとんでもSFジェリイ・ソール『半数染色体』についてでした。
「日本SF全集[第三期]第十七巻 大原まり子 その1前期作品」23 日下三蔵
「センス・オブ・リアリティ」金子隆一・香山リカ
◆「「兄弟仁義」人類篇」金子隆一……ヒトの次はネアンデルタールのゲノム解読かぁ。
◆「「仮面下流」の若者たち」香山リカ……これまでわが国は一億総中流だったわけですけれど、これからは下流意識のない下流が増えるわけですか……。気分は中流という意味では昔も今も変わらないのだと思うが。
「生まれ変わる前にもう一度あなたを抱きしめたい」井上裕之《リーダーズ・ストーリイ》
「近代日本奇想小説史」(第52回 謎の衛生劇『世の赤裸』ほか)横田順彌
今回はほんとうに奇想というかもう無茶苦茶です。
「SF BOOK SCENE」小川隆
スリップストリームもといストレンジ・フィクションあるいはスプロール・フィクションのアンソロジーが二冊刊行されたそうです。ジェイムズ・パトリック・ケリー&ジョン・ケッセル編『Feeling Very Strange』とラスティ・モリスン&ケン・キーガン編『Paraspheres』。どちらもまるまんま訳されてくれればいいのになあ。アラン・デニーロの短篇集『Skinny Dipping the Lake of the Dead』の紹介文を読んだ印象では、こちらはもしかすると柴田元幸が訳してくれそうだな、と思わせるような内容なので本誌掲載を期待したい。『ミステリマガジン』の評論でも触れられていたけれど、「十二歳という年齢を黄金時代とみなすSFの感覚」とはどういう意味なのだろう。懐古趣味ではなく、若者に、未来に挑戦し続ける感覚だと思いたい。
「MAGAZINE REVIEW」〈F&SF〉誌《2006.3〜2006.6》香月祥宏
四月号掲載のダリル・グレゴリイ「夜の庭師(Gardening at Night)」が面白そう。「レグの人生、エリを蝕む謎の病、そしてロボットの不具合という要素に、ラストで見事に決着をつけている」。
【スター・トレック特集 シリーズ放映開始40周年記念】丸屋九兵衛監修
いみじくも、なのか、はかったのかはしらないけれど、【現代女性作家特集】ともリンクするようなマイノリティの問題を真っ正面から扱ったSFなのだと初めて知りました。
m-floの☆Takuとカーク船長声優の矢島氏とピカード艦長声優の麦人の対談。ほかに鹿野司氏の寄稿があるほかは、丸屋九兵衛氏がほとんど全部の解説を担当。
「私家版20世紀文化選録」94 伊藤卓
漫画『哀愁のアメリカンパイ』水谷潤、映画『ジャズ大名』岡本喜八監督、自伝『新ドレミファ交遊録』いずみたく。
「小来栖の森」(霊峰の門 第七話)谷甲州
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