『コミック幽』秋山亜由子ほか(メディアファクトリー)★★★★☆

 怪談専門誌『幽』1〜6号掲載の漫画がすべて収録された豪華な一冊。カバーが指紋べたべたで微妙に怖い。

 『幽』本体は「ホラー」と「怪談」の違いにもこだわった、文字通りの「怪談専門誌」なのだけれど、コミックの方はそれほどでもない。実話怪談風のものからファンタジーからコミックエッセイまで幅広い。

 諸星大二郎はやはり第一号に載っていた「ことろの森」が圧倒的に怖い。怪談としては定番中の定番なのだが、諸星流ブキミ日常ファンタジーかと思わせておいて最後の最後に怪談に落とされるので、読んでる方としては鳥肌が立つ。絵的にも怖い。

 押切蓮介はわたしのあまり好きではない実話怪談を描いているのだが、それがまた下手なのだ。いかにも知ったかぶりな説明的モノローグが作品全体を盛り下げることおびただしい。

 民話&都市伝説風の絶妙な語りと絵柄の持ち主が五十嵐大介。読み返してみると「しらんぷり」って「るんびにの子供」だ。こういうのってホント作家性の違いが出て面白い。不思議、で終わらせる作家と、不思議から始まって人間の怖さに持っていく作家と。

 中山昌亮「呼んでる?」は第2号にこれ一作が掲載されたきり。どうやら売れっ子らしいので忙しいのだろう。いかにも青年誌らしい濃ゆい絵柄と、説明不可能な恐怖が独特の読後感をもたらす。

 伊藤三巳華「憑々草」は実話怪談&コミックエッセイ。カワイイキャラと伊藤潤二みたいな幽霊の取り合わせ、怪が日常化している日々を飽くまでほのぼのコミックエッセイ風に綴るところがポイント。つまり実話怪談特有の押しつけがましさがないのです。

 高橋葉介はもう説明するまでもなく、怪談でも何でもなく葉介ワールドの作品群です。最後の「心霊写真」がその名の通り唯一怪談らしい。

 秋山亜由子「安芸之助の夢」は創刊号「小泉八雲特集」に掲載された作品。デフォルメされたキャラたちのなか、王女だけが「美し」さを強調しようとしてタッチが違うのがかえって違和感があって残念。空想のなかに生身の人間が入り込んだようで興ざめだった。もったいない。

 花輪和一も花輪ワールドとしか言いようのない作品群。高橋葉介諸星大二郎のように、怪談ぽくしようという意思すらない。

 魔夜峰央の化け猫漫画は、第5号「猫特集」に掲載されたもの。

 波津彬子の『耳袋』漫画は、第6号「江戸の怪特集」に掲載されたもの。同じく「化鳥」は第4号「泉鏡花特集」に掲載。

 最後は大田垣晴子のコミックエッセイ。天井さがりやうわんの遊び心あふれるエピソードには、何度読んでも笑える。いや「怪談マンガアンソロジー」なんだけどね。。。笑っていいのか。
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