『道化の民俗学』山口昌男(岩波現代文庫)★★★★☆

 アルレッキーノという、日本人にはあまりなじみのないイタリアの道化芝居のあらすじから幕を開けます。まあ骨子はシェイクスピアの入れ替わり喜劇みたいなものなのですが、正直言ってまるまる一章一部があらすじ紹介というのはツライものがありました。それも筋の面白さを伝えるあらすじではなくって、アルレッキーノの性質を伝えるためのあらすじだから、余計に読んでて面白いものではないんです。

 でもそこを我慢すれば、『真夏の夜の夢』の「パックの起源は悪魔である」という引用から、アルレッキーノ=変幻自在=悪魔=ヘルメス(マーキュリー)等々と、文化と論理と発想を次々と飛んで翔け、果てはアフリカ、インドのクリシュナ、アメリカ・インディアンの話へと翼を広げてゆきます。「スサノオは道化=トリックスター神なのである」なんていう指摘もあったり。

 わたしはこういう大風呂敷を広げてやまないタイプの評論が大好きです。学者ではないので、学問的にどうこうとか論理的にどうこうではなく、読んで面白いかどうかがポイントなんですよね。だから正直に言ってこれが論文として優れているのかどうかはわかりません。

 エロスと笑い、諷刺と滑稽に満ちた祝祭空間で演じられる《道化》の意味は何か――コンメーディア・デラルテの主人公アルレッキーノ狂言の太郎冠者、中世劇の悪魔と道化、ギリシャ神話のヘルメス、アフリカのトリックスター神話、古代インドの黒き英雄神クリシュナ、アメリカ・インディアンの道化集団など世界の民俗に分け入って、博引旁証、縦横無尽に議論を展開する。文化英雄としての道化の本質を明らかにし、一九七〇年代の知の閉塞状況を打破した記念碑的著作。(カバー袖あらすじより)
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