プロ野球スター・プレーヤーの子供が誘拐された! 身代金は一千万円。犯人の指示で赤電話から赤電話へ、転々と走り回る吉敷刑事。が、六度目の電話を最後に、犯人は突然、身代金の受け取りを放棄、子供を解放。釈然としない捜査一課。犯人の目的は何か? 誘拐物の類型を脱し野心的な着想で挑む、会心の長編推理力作!(カバー裏あらすじより)
――というあらすじからもわかるとおり、この作品の魅力は「なぜ?」にあります。吉敷たちが事件を捜査するパートと、犯人らしき人物の妻が事件発生前から体験した謎めいた出来事のパートが、交互に語られる構成が取られているため、犯人側の行動についても読者にはある程度はじめからわかっているし、野球の話と借金がどうこうの話が出てきた時点で野球賭博らしきことはわかるので、いっそう「なぜ?」という謎だけが際立っていました。
そんなふうにわくわくしながら読み終えた「なぜ?」の答えは、しかし残念ながらわかったようなわからないようなものでした。
いや、だって、お金はあればあっただけいい、という発想にはならないのでしょうか?
ミステリとしての見どころは、一つには犯人の隠し方でしょうか。「なぜ?」の謎が気になっていたので、そっちの方はあまり気にしてませんでした。形見がカセットテープというのは強引ですが、探偵役が事件のからくりに気づくきっかけというのは、やはりいつ読んでもわくわくします。
もう一つは、妻の佳子が目撃した白いバンを誰も見ていないという、幻の女パターンの真相でしょうか。この手の謎の真相なんてそれほどバリエーションはないのでしょうが、本書の場合は誘拐事件の背景と密接に関わっているところがポイントでしょう。
知らぬは警察と妻ばかりなり。
著者ならではの大トリックがありませんでした。
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