『幽 Vol.007』特集一・三遊亭圓朝/特集二・朗読怪談(メディアファクトリー)★★★★☆

 第一特集は圓朝圓朝そのものというよりも、圓朝の魅力を外堀から埋めていくような特集でした。累伝承はともかくとして、他は映画『怪談』関係者の対談と、落語家&講談師インタビュー。もちろん尾上菊之助×京極夏彦平山夢明×『怪談』監督という豪華さは魅力的だし、実際の演者の視点というのも興味深いのだけれど、ストレートな圓朝特集を期待するとちょっと違う。

「累ヶ淵幻景」 ――『真景累ヶ淵』のルーツである累伝承とその変遷。

「対談『真景累ヶ淵』を語る」尾上菊之助×京極夏彦 ――何だこのレイアウトは(^^;、読みづらい。「日本の怪談は根本的にラブストーリー」という見方が面白い。ここらへんの話の持ってき方と説得力はまるで京極堂だな(^^)。

「演者が語る圓朝怪談噺」一龍斎貞水・林家正雀
 ――ここらへんは圓朝特集であると同時に、第二特集の「朗読怪談」ともリンクしてますね〜。音が怖いってのは意外でした。噺家が言うからまたいっそう意外で。笑う話と泣く話と怖い話だと怖い話が一番すっきりするというのも面白いな。

圓朝怪談のルーツを探る」堤邦彦 ――圓朝に留まらない怪談話のルーツ。

「対談 映画『怪談』を語る」平山夢明×中田秀夫 ――これは完全に映画と怪談の話になっちゃってます。
 

「百物語」牧野修 ★★★☆☆
 ――百物語というのがございます。夜中に、向こうから男が一人、やって来たんですわ。あの、陽炎ですか、あんな感じにゆらゆらと揺れてる。えっ、と思てる間にもどんどん近づいてきます。ゆらゆらゆらゆらゆら、ゆらゆらゆらゆらゆら。

 著者コメントによると、「ハナシをノベル」の一篇なのだそうです。ああ、そうなると結びの意味もわかる。本篇だけ読んでも下手な趣向過ぎて意味不明でしたから。四篇の作中作がありますが、最初の二つが上手くて、あとの二つがベタかな。一つ目のゆらゆら男の話は、定番の組み合わせがうまい効果をあげています。二つ目の屋根裏の話は、不条理な怖さがたまりません。

「深泥丘魔術団7」綾辻行人 ――第一号のを読んでつまらなかったからそれ以来読んでいないのだけれど、改めて見るとすごいセンスだな。なんだよ「深泥丘《みどろがおか》」って……。
 

「幽談2 ともだち」京極夏彦 ★★★☆☆
 ――少しだけ見覚えがある。こんな場所、来たこともない。学校だ。やはり――。私のいた街なのか。電柱が立っている。その電柱の横に。森田君が立っていた。

 ありゃ。やっぱり短篇だったのか。ひょっとして長篇の一部なんじゃないかと期待していたりもしたのに。前回の作品はちょっと幻想的でよかったのだが、今回のは前回に比べると割りと実話怪談っぽさが強くなってて残念。というかもしかするとこれは、実話怪談ネタを小説風にというシリーズなのかな。『幽』掲載作は創作を実話怪談風にという作品が多いだけに新鮮ではある。
 

「鬼談草紙」07小野不由美 ★★★☆☆――う〜ん。。。今回のは安定しているけれど、どれもどこにでもある実話怪談っぽくてもの足りない。確かに「被写体不明」の写真は怖いけれど。
 

「鳥とファフロッキーズ現象について」山白朝子 ★★★★☆
 ――そいつには奇妙な能力があった。ソファーにねそべってテレビを見ているときだ。チャンネルを変えたいけど、リモコンにはとどかない距離だった。鳥はまっすぐリモコンにちかづき、嘴で器用にくわえこんだ。

 相変わらず残酷と美を共存させるのがうまい。現代が舞台なのに、一人ぼっちという設定もすんなり受け入れられる筆力があります。孤独に忍び寄る魔が、心の隙間を埋める存在でもあるあたりに、日陰を愛する者の顔が覗く。心のないものに心を通わせてしまうという出来事が、浪花節やおセンチではなくクールな美意識の文章で綴られているので、グロで耽美な絵面だけでも楽しめる。
 

「海原にて」有栖川有栖(読切り鉄道怪談5)★★★☆☆
 ――三等航海士のパーカーが顔を出す。「船長からのお誘いです。サロンにいらっしゃいませんか?」サロンには、船長の他に二人の男女がいた。「私は奇談の蒐集家なんだ。とくと語らせていただきましょう」

 ええと、今回のはどうやって鉄道怪談と結びつくのかというのが読みどころでしょうか、ね。
 

「短歌百物語」佐藤弓生

「花の下の敷物にゐる集団に見覚えあると思ふたまゆら」花山多佳子――おお。これは普通に読めば、毎年毎年変わらず繰り返される花見を歌った歌だと思うのだけれど、そうか見方を変えるとちょっと怖いよなぁ。

「埋められた死骸はつひに見付からず/砂山をかし/青空をかし」夢野久作――「猟奇歌」からの一首。

「むらさきの風吹きすさぶ荒ぶなかにいて文字盤つよく抱きしめていよ」笹公人
 

「僕の可愛いお気に入り」恩田陸

加門七海×立原透耶」

「怪談ハンター木原浩勝 怪異渉猟行」

「やじきた怪談旅日記」中山市朗・北野誠

「続・怪を訊く日々」07福澤徹三

「顳顬草紙」07平山夢明

「日本の幽霊事件」07「玉菊の墓」小池壮彦

 前回の続きのような感じです。

「記憶/異変」07高原英理

 「外来者」の感覚がすごく好きです。何でもかんでも一くくりじゃなくって、「私たちの他に、何かはいた」者と、それとは違う「外来者」という感覚。のっぺらぼう=顔に大火傷を負ったものという民俗学っぽいこともさらりと述べられてます。

「山の霊異記」05安曇潤平

「朗読怪談」(黒史郎「アカシ語り」/水沫流人「蹤《あしあと》」/宇佐美まこと「いつも一緒」/京極夏彦「黙読する怪談と音読する怪談」)

 三人とも朗読=語り口調を意識しすぎていたんじゃないかなあ? 特に黒氏のはあんまり板についていなかった。水沫氏はもとが鏡花だから違和感はない。ただ、いつの間にか狂気に移り変わる場面がもうちょっといびつでもよかったと思う。スムーズ過ぎて、うまいとは思うけれど怖くはなかった。宇佐美氏のは一番普通の小説だった。うまいし安心して読めるけれど、何か後もう一押しといったところ。
 

「怪談徒然日記07」加門七海 ――シュールだ(^_^)。怪談というよりも、心霊ネタのギャグやコント集みたい。

「作家探訪/怪談生活の達人」紀田順一郎インタビュー

「幽靈屋敷」アンドレ・モロア/小林龍雄訳(La maison,André Maurois)★★★★☆
 ――二年前に妾が重病になつたとき、と彼女は話しました、妾は毎晩同じ夢を見るのに気がつきました。妾は田舎をうろついてゐました。妾は遠くの方から、菩提樹の林に取り囲まれた、屋根が低くて長い、一軒の白亜の家を見つけました。

 お、こういうのを名訳っていうのかな。「〜ました」「〜ました」の連続なのに、むしろそれがリズムになっていて心地よい。ジェントルな幽霊ものショート・ショートの、お手本のような作品。
 

「怪談考古学」06「蛇ノ巻」佐々木聡・堤邦彦・井関大介

「スポットライトは焼酎火」07 大江篤インタビュー

 東アジア恠異学会のメンバーで、論文集『日本古代の神と霊』を上梓した方。在野の方ではなく大学教授がこんなことをやる時代になったんだなあと感慨ひとしお。

「日本の古き神々を訪ねて」岩崎真美子

 八坂神社と北野天神。
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