『山本周五郎探偵小説全集1 少年探偵・春田龍介』山本周五郎/末國善己編(作品社)★★★☆☆

 カバーにさり気なく描かれたカットの少年がおしゃれ。

 なにぶん戦前の少年向けなので、探偵小説とはいっても冒険小説味が強いし、筋も粗い。それでもいくつかの作品にはトリッキーで光るところがあるし、短篇では活かしきれていない冒険味も長篇では存分に活かされてわくわくさせられた。

 〈少年探偵・春田龍介〉シリーズ

「危し!! 潜水艦の秘密」★★☆☆☆
 ――家に帰った春田君は、友達が拾った暗号を調べ始めた。「○ツエイ ハ ヨ○八時三〇分……」その夜春田博士の実験室では、博士の発明した世界最初の無燃料機関の実験をすることになっていた。

 わざわざアジトを暗号に折り込んでいたりと、そこここにお茶目なところが炸裂している本篇だが、解説を読んで、そのHowdunitとしての意外性にちょっとだけ感心。
 

「黒襟飾組の魔手」★★☆☆☆
 ――龍介の伯父に当る若林子爵が脅迫状を受け取った。「警告。我等は貴家所蔵の黄色金剛石を頂戴せんと欲す。黒襟飾組首領」

 少年探偵団と某ホームズ短篇を思わせる展開だが、やはりメリケン壮太をはじめとした活劇色が強い。
 

「幽霊屋敷の殺人」★★★★☆
 ――近ごろ騒がれている白堊館事件というのは、松川博士が自宅で殺された事件なのだが、妙なことには、殺される一週間ほど前から、幽霊に殺される!とくり返していたという。

 直球すぎて魅力のないタイトルながら、実は本格味の強い作品だったりします。幽霊に殺されるという発端。額に飾られた暗号。意外性を突く見取り図の使用法。特に、見取り図というものに対する固定観念をひっくり返すような真相はけっこう好きです。
 

「骸骨島の大冒険」★★☆☆☆
 ――三人の紳士が龍介を取り巻いた。とその時、「動くな小僧、今度は己の勝ちだ!」見よそこにあらわれたのは黒襟飾組事件のとき倉庫から姿をくらました、あの混血少年のチャアリイではないか。

 これは……みんなしてとにかくドタバタと暴れ回っている印象。「海狼《ふたり》」という海流だけが興味深かった。
 

「謎の頸飾事件」★★★★☆
 ――牧野子爵邸で新年宴会が催された。女の叫び声が聞こえた。刑事が駆けつけると、化粧室の外に秋山という紳士が突っ立っていた。化粧室の電灯をつけると、小間使が倒れており、空の宝石筐が落ちていた。

 きっと期待しない分面白いんだろうな。見え見えの犯人探しかと思っていたら、意外な隠し場所ネタの佳品だった。でも最初から意外な隠し場所を期待すると期待はずれかもしれない。どうだろう?
 

「ウラルの東」★★★★☆
 ――春田龍介は満州国国賓待遇者となったのだ。だが満州への旅には隠された目的があった。大陸に跋扈する暗殺秘密結社「匕首党」を壊滅させるのだ……。

 春田龍介シリーズの大トリは、満州を舞台にした波瀾万丈手に汗握る長篇である。とにかくアクションに次ぐアクション。騙し合いに次ぐ騙し合い。少年探偵春田龍介君が、相手が悪人とはいえ人を殺しまくるとんでもない作品だ。周五郎の筆も生き生きとしており、本書中でも一番出来の作品だった。
 

「殺生谷の鬼火」★★★☆☆
 ――「母死ス父危篤至急帰レ」北海道の妹からこんな電報を受け取った。直ぐ故郷に帰ると、殺生谷の怨霊が母親を攫っていったという。

 アイヌ版『八つ墓村』+『バスカヴィル家の犬』である。鬼火の言い伝えがいかにもそれらしくって引き込まれる。
 

「亡霊ホテル」★★☆☆☆
 ――給仕が珈琲を運んできた。「好くお寝みになれましたか」「よく眠れなかったよ君、向うの部屋にはどんな客が泊まっているんだい? 一晩中妙な声をだしたりして」「――矢張りお聞きになりましたか」

 真相を見破るきっかけが論理的なところがポイントです。冒険ものではない分、ちょっと吸引力が落ちる。
 

「天狗岩の殺人魔」★★☆☆☆
 ――「伯父さん大変だ、凄い記事ですぜ。殺人鬼権六! 当地へ潜入せり――」そのときドアが開けられて、従兄が飛び込んできた。「た、大変です。人が殺されて……」

 う〜ん。これは……。もしやこれまでの作品すべてが壮大なレッドヘリングだったのではないだろうかなどと妄想してしまった。「無燃料機関」だの「電気ピストル」だの書かれたあとじゃあ、これだってありなのかと思うじゃないですか。
 

「劇団「笑う妖魔」」★★★★☆
 ――五郎が受話器を耳にあてるや、「日東劇場の地下食堂へ、午後五時に来い。忘れるな」という囁声がした。翌日、今度は妹が電話に出ると、さっと顔色を変え、家を出た。

 最後の最後にとんでもないトリッキーな作品が待っていました。いかにも戦前の探偵小説っぽいといえばぽいのですが。「探偵小説」好きには一番アピールする作品かもしれません。
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