『月が昇るとき』グラディス・ミッチェル/好野理恵訳(晶文社ミステリ)
『The Rising of the Moon』Gladys Mitchell,1945年。
サイモンとキースの兄弟が町に来たサーカスを楽しみにしていたとき、サーカスの女芸人がメッタ刺しにして殺されるという事件が起こります。それを皮切りに、若い女性ばかりが殺される事件が続きます。二人は長兄ジャックの怪しげな行動に不審を持つが……。
たとえば骨董店のお婆さんから「自分が死んだら遺言でプレゼントを残すよ」と言われて、「早く死んでくれないかな」と不謹慎なことを願うあたりは、少年ものとしてよく出来てるなあ、と思います。
けれどそうした少年ならではの視点の魅力が続くわけでもなく、謎解きのサスペンスがあるわけでもなく、だらだら続いていつの間にか終わっていました。
解説者によると「『盛り上がるべきところで盛り上がらず、本来なら盛り上がるはずのないところで、突如、盛り上がったりする面白さ』のオフビートな魅力」だそうで、確かに盛り上がりに関してはその通りでした。
同じく解説者によると、「日常生活や家庭内のさまざまな軋轢」などが「サイモン少年の目を通して、殺人事件と変わらぬ比重をもって語られていきます」と書かれていて、これだけ読むと少年の日々を描いた良作のようですが、実際にはどちらも比重が“軽い”んですよね。最初から最後まで盛り上がりませんでした。
そういうわけで盛り上がりなどないので、探偵役のミセス・ブラッドリーもさして存在感がなく、犯人が確定する場面も唐突でそのくせ具体的描写は何もなく、動機の書き方もテキトーなら実際の動機だとしても無茶苦茶でした。
肝心の少年たちの魅力がまったく伝わってこなかったので青春ものとして楽しむこともできませんでした。
復活祭の祝日、サイモンとキースの兄弟は町にやって来たサーカスを楽しみにしていた。しかし、開幕前夜、家を抜け出して会場の偵察に出かけた二人は、運河の橋で怪しい人影を目撃、翌朝、ナイフで切り裂かれた女綱渡り師の死体が発見される。その後も若い女性ばかりを狙った同様の手口の犯行が続発、平和な町に恐怖が広がった。事件の真相を探ろうと決心したサイモン少年は、骨董屋で出会った不思議な老婦人に協力を求められるが、その女性こそ、数々の難事件を解決してきた心理学者ミセス・ブラッドリーだった。オフビートな探偵小説の作者として本邦でも俄然注目を集め始めたグラディス・ミッチェルの最高傑作とも評される本書は、切り裂き魔による連続殺人事件を13歳の少年の目を通して描き、不思議な詩情をたたえた傑作である。(カバー袖あらすじ)
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