『ミステリマガジン』2009年04月号No.638【猫はミステリの最良の友】


「迷宮解体新書10 湊かなえ」村上貴史
 『告白』で話題の著者がさっそく登場です。

「私の本棚16 道尾秀介
 これまたここ何年か話題の著者の登場です。新体制の意気込みか?

「第2回 世界バカミス☆アワード!! 受賞の言葉」
 なんと破格の(?)カラーグラビアページです。せっかくのカラーなのに、黒服の著者が白いバカミストロフィーを持っているところが、バカミスっぽくて素敵です。

「特集 猫はミステリの最良の友」

「ミステリ界の愛猫拝見!」
 エッセイにも登場の倉阪氏の愛猫もお披露目。

「猫はどこから入ってきたのか」マット・カワード/横山啓明(Where the Cat Came in,Mat Coward,1998)★★★★☆
 ――ビー、ウィーン、ガチャン。セキュリティー・システムが作動したのだ。閉じ込められた。おれと猫と現金。おれのような「いあき」つまり空き巣狙いは、天窓から忍び込むこともしなければ錠前破りもしない。つまり、逃げ出すための特別な道具のようなものはなにも持っていない。

 猫特集にふさわしい一篇。というか、もともとが猫テーマのアンソロジーに書き下ろされたもののようです。ノリのいい泥棒が語り手の犯罪小説だと思いきや、けっこうトリッキーな作品でした。語り手にとっても「不測の事態」を騙りの仕掛け重ねることで、読者の目をくらますことに成功しています。
 

「二匹の猫の影」倉阪鬼一郎
 少年期のショッキングな思い出。

「ベイビーズ&ブレッツ」ジム・デイビス&ロン・タットヒル/富永和子訳(Babes and Bullets,Jim Davis&Ron Tuthill,1984)★★★☆☆
 ――種なしサム《サム・スペイド》みたいな名前の者が私立探偵でいるのはらくじゃない。因果な商売だが、俺は必要な条件をすべて満たしている。可愛い子ちゃんとアクション《ベイビーズ&ブレッツ》が大好きで……おまけにトレンチコートもよく似合う。

 猫による一人称私立探偵小説。元が「ガーフィールド」シリーズなので、「猫ありき」です。何か批評的パロディ的に猫である必然性があるわけではありません。ところどころにギャグを挟んだマッチョボイルドです。
 

「猫ミステリ傑作選編纂者の告白」木村二郎

「翻訳家業で出会った猫たち」羽田詩津子

「ブーツィーのために」ジェレマイア・ヒーリイ/菊地よしみ訳(For the Benefit of Bootsy,Jeremiah Healy,2001)★★★☆☆
 ――猫を遺産相続人に指定した資産家が転落死した。資産管理において不正行為をしたと、猫の代理人から訴えられている弁護士が、私立探偵ジョン・カディのもとを訪れた。これには何かの陰謀があったのではないか……?

 読み終えてみれば「猫は知っていた」ものというか「もの言えぬ証人」ものというかなのですが、そんな真っ正面からは書かずに、猫に訴えられるというインパクトを前面に押し出したところがポイントです。とはいえ上記二篇のあとに読むとどうしても普通すぎてしまう猫ミステリです。
 

「決して忘れられない夜」岸田るり子 ★★★★☆
 ――アンチ猫好きに捧げる、別れを目前にした男女の晩餐の行方。(袖惹句より)

 はからずも木村二郎氏の戒めを破っているのが面白い。しかも「愛猫拝見!」にも登場した愛猫家なのに。。。この手の作品は結末はまるわかりなので、(悪趣味な言い方ですが)そこまでの過程をどれだけ味わい尽くせるか、だと思うのですが、アブナイ女と身勝手な男の口げんかという、犬も食わない内容であるところが、かえって毒が効いてます。猫こそいい迷惑でした。ウサギというのは単に南仏料理だから? ウールリッチのあの作品へのオマージュというのは考えすぎ?
 

「猫ミステリ最新ガイド」杉江松恋

「猫ミステリは九度死ぬ」杉江松恋
 へえ、クイーン『九尾の猫』の原題は『Cat of Many Tails』なのか。名訳だなあ。チャンドラーの愛猫タキはもともとはタケ(竹)だったんだそうです。
 

「第2回 世界バカミス☆アワード!!決定」
 『メアリー‐ケイト』の「六十ページ目」が気になる。何が起こるんだ(って、バックナンバーではさんざん紹介されてますが)。リン・ディンの『血液と石鹸』がバカミスに選ばれてたりします。
 

「沈黙の時代の作家2」サラ・パレツキー山本やよい
 

「プロメテウス・デバッグ」福田和代訳
 ――天才ハッカー能篠はテロ組織に連れ去られたパンドラを追う!

 今回はちょっとアクション寄り?
 

「翻訳ミステリ応援団!(第2回)」北上次郎×田口俊樹×池上冬樹・石井千湖・小山正・杉江松恋
 今回は書評について。前回よりは身近になったけど、相変わらず業界向け。まあ仮に読者に向かって翻訳ミステリを応援しようとしても、「読め読め」としか言いようがないのだから、業界向けなのは当然なのかもしれないけれど。

 「《SFマガジン》のほうが書評のレベルが高い」というのはまったく同感ですが、それは「ミステリ」の裾野が広がり過ぎちゃっているからしょうがないものなのだと思いながらこれまで読んでました(ついでにいうと小説のレベルもSFマガジンの方が高いような気が)。その点『SFマガジン』はいまだにちゃんとした評論をちゃんと読むオタク向け専門誌であり続けているのだと思います。

 でも「短篇が(中略)読者に読まれている率が少ない」と書かれてあって、一瞬「?」と思ったのですが、つまり〈翻訳ミステリ〉が読まれてないから、以前のリニューアルで国内ミステリの比率を増やし、さらにはこんな連載を始めたのかと、ようやく腑に落ちました。でもショージキ迷走しているような気が――。
 

「書評など」
 書評についての座談会のすぐ後ろに書評コーナーがあるとは、評論家さんにとっては何ともオソロシイ誌面作りです。ところがどうした偶然か、今月に限って購入したい本も購入した本も一冊も紹介されていないという不思議。幻影城の時代 完全版』は亜智一郎ものの新作が掲載されているということなので、さんざん迷ったのだけれど、そのためだけに6000円も出すのはさすがに思いとどまりました(でもシリーズ短篇がこれ以上増えることは絶対にないのだから、あるいは今後とも一冊にまとめられることはなく、この本だけでしか読めないということになるのでしょうか)。ほかに『文藝 柴田元幸特集』に一部訳載されていた『雪男たちの国』も気になるところではあるのだけれど。

◆洋書案内コーナーでは、ホームズの幽霊が活躍する作品が紹介されていました。『Le fantome de Baker Street』ファブリス・ブルラン(Fabrice Bourland)。ホームズのパロディやパスティーシュなら幽霊というのも別段に珍しくはないと思うのですが、これが変わっているのは、ホームズ譚の物語世界のなかで死後のホームズが活躍するのではなく、著者のドイルやわたしたち読者がいる現実世界に架空の人物であるはずのホームズの幽霊が現れるというところです。こうしたベタなギャグのような設定がいったいどう描かれているのか気になります。

◆DVDコーナーもホームズもの。『新シャーロック・ホームズ/おかしな弟の大冒険』。吹替えが広川太一郎熊倉一雄
 

「独楽日記(第16回)出演馬38頭! ジンガロのお馬様を拝みに行く」佐藤亜紀
 WOWOWで放映していたのを見ましたが、舞台や音楽以上にこれは実際に足を運んだ方が何百倍も面白いことでしょう。それも一番前の席で。WOWOWといえば今月は、『スルース』放映に会わせて旧作の『探偵スルース』も放映される予定です。絶対に録画を忘れずにおらねば。

「誰が少年探偵団を殺そうと。」08 千野帽子「作家が偉いから読者が感動するのか?」
 ユルユルで始まった連載も、だんだん評論っぽくなってきました。そうはいっても中盤で「評論家」と「読者」をいっしょくたにしていたり、たぶんミステリに造詣が深いわけでもない太田光をわざわざ取り上げていたり、やっぱりユルユル?――と思わせたあげくに、どこに魅せられたっていいじゃんという最初の話に戻るところはやっぱり評論っぽい?
 

「ミステリ・ヴォイス・UK」(第16回 ジョン・モーティマー追悼)松下祥子

「夢幻紳士 回帰篇(第八話)鬼」高橋葉介

「日本映画のミステリライターズ(32)和田誠(I)と『MURDER!』」石上三登志
 和田誠の短篇ミステリアニメ。これは見たい。
 

「夜の放浪者たち 第52回 橘外男『妖花 ユウゼニカ物語』(後篇)」野崎六助
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