『探偵〈スルース〉』(Sleuthe,1972年、英)★★★☆☆

 しまった。期待しすぎでした。

 わたしははっきり目に見えるようなどんでん返しが好きなんだな、というのがわかりました。ある程度ミステリを読んだり映画を観たりしている人ならこの作品の〈どんでん返し〉は予想がつくので、ミステリ的に何かを期待したりはしない方がいいでしょう。

 戯曲が原作なだけあって、人間性をえぐり返す攻撃の数々にはほんとうに頭が下がります。そういう意味ではミステリの爽快感よりも人間性の嫌らしさの方が記憶に残る映画です。

 マイロが「死ぬ以上に恐ろしい思いをさせた」という場面があるのですが、そこでわたしは「え〜、だったら死んだ方がよかったってこと?」と思ってしまいました。人によってはマイロに共感して「うん、そうそう」と思うかもしれませんし、わたしのように思う人もいるでしょうし、そこから一歩進んで「じゃあ死ねば?」と思う人もいるかもしれません。(実際、結末を考えると……?)

 こういう、登場人物の心理だけでなく、それを通して観客の心まで試すようなところが演劇の十八番ですよねぇ。。。

 映画としては、からくり人形をはじめとする独特の映像美を堪能しました。これは舞台では味わえない映画版ならではの長所でしょう。こういうのはリメイクではどうなっているのか、ちょっと興味があります。さすがにおんなじカット割りはできないでしょうし、といってどうストーリーとからめた絵にするのかというと難しい気がします。

 もう一つの特徴が、キャスト二人の演技合戦です。監督も俳優も開き直ったのかどうか、計画を話し合うシーンや後半でローレンス・オリヴィエが右往左往するシーンなどはまるっきり演劇的なノリのままで、見ていてずいぶんと楽しかったです。

 そのローレンス・オリヴィエなのですが、男の情けなさみたいなものを演じさせたらものすごく上手くて(っていうのも失礼な言い方でしょうが)、それが『黄昏』みたいな映画だとうまくはまっているのですが、『マラソンマン』や本篇『探偵〈スルース〉』のような作品だと、前半のどっしりした演技と後半の小心者な演技の落差がありすぎて、どうもピンと来ません。その落差こそが人間性、それこそが表と裏、それを演じ分ける表現力の豊かさ、ということなのかもしれませんけど。。。
 -----------------

  


防犯カメラ