『37の短篇』からのポケミス化第二弾。既読のものは今回はいくつかパスしました。今回パスした「魔の森の家」と「ジェミニイ・クリケット事件」(ただしわたしはイギリス版の方が好み)が双璧でしょうか。
「うぶな心が張り裂ける」クレイグ・ライス/小笠原豊樹訳(His Heart Could Break,Craig Rice,1943)★★★☆☆
――裁判再開までには、新しい証拠をひねり出さねばなるまい。マローンが依頼人に会いに刑務所にきたとき、看守の一人が扉をあけた。すばやく綱を切り、ぶらさがっていた囚人の体を床におろした。「切れなかった」とパーマーはマローンにささやき、そしてこときれた。
何度か読んでいるはずなのですがまったく内容を思い出せなかったのでまた読む。マローンの努力によって死刑をまぬがれた囚人が首をくくったのはなぜか?という話。
「燕京綺譚」ヘレン・マクロイ/田中西二郎訳(The Chinoisrie,Helen McCloy,1946)
「魔の森の家」カーター・ディクスン/江戸川乱歩訳(The House in Goblin Wood,Carter Dickson,1947)
「百万に一つの偶然」ロイ・ヴィカーズ/宇野利泰訳(The Million-to-One Chance,Roy Vickers,1949)★★★☆☆
――「情報にもとづいて」。これは密告者の力で事件が解決できた場合に使われる常套文句である。警察はアーサー・クロウチの死体を発見した。犯罪の状況からいって、目撃者がいたとは考えられぬ。マスチフ犬が情報提供者だった。
迷宮課事件簿シリーズ。このシリーズはたいてい偶然によって解決されるので、タイトルには今さらながらの感があるのですが、犬の様子が少しおかしかったという伏線がオチに見事に活かされていて爆笑しました。友人から仕事も妻も奪い執拗に嫌がらせを続けてきた男が、ついに反撃されてしまう話なのですが、嫌がらせのきっかけが、命を助けられたことに対する引け目から逆恨みしてというのも笑かしてくれます。
「少年の意志」Q・パトリック/北村太郎訳(A Boy's Will,Q. Patrick,1950)★★★☆☆
――その天使のような少年は、ジョン・ゴドルフィンに向かって「あなたのイニシャルがついたこのハンカチが、殺人現場に落ちていたってことは言わないでおいてあげるよ」と言った。「警察に行ってもいいよ。どっちの言うこと信じるかな」
この人(たち?)は悪童ものが好きなんですねえ。少年目線の金の切れ目の付け方が、ちょこっとリアルでぞくっとします。
「51番目の密室」ロバート・アーサー/宇野利泰訳(The 51st Sealed Room,Robert Arthur,1951)
「燈台」エドガー・アラン・ポー&ロバート・ブロック/吉田誠一訳(The Lighthouse,Edgar Allan Poe & Robert Bloch,1849?・1953)
「一滴の血」コーネル・ウールリッチ/稲葉明雄訳(One Drop of Blood,Cornell Woolrich,1961)★★★☆☆
――彼とコリンヌは踊っていた。車にのって、キッスをかわし、星空をながめ……そしてまた同じ夜、同じキッス、同じ車にのってモーテルに行った。だが彼は、アリイと出会った。彼はコリンヌに結婚を迫られ、気づくと何度も彼女を打ちのめしていた。ペンキを買って、壁の血を塗りつぶした……。
これはネタだけ知ってました。情熱的な犯人とひたむきな刑事にもかかわらず、文章が抑えた暗いものなので、醒めた犯人と醒めた刑事のじりじりするようなしのぎあいに見えるかっこよさ。さり気なくグロい残酷描写がありますが、内容からいって前提として部屋が血塗れでなくてはならないので仕方ないのでしょう。
「アスコット・タイ事件」ロバート・L・フィッシュ/吉田誠一訳(The Adventure of the Ascot Tie,Robert L. Fish,1960)
「選ばれた者」リース・デイヴィス/工藤政司訳(The Chosen One,Rhys Davies,1966)★★★☆☆
――まさかヴァインズ夫人が追い出すことはあるまいと思っていた。代々コテージに住んできたのだ。それにグロリアはふしだら女なんかではない。
これは糞ばばあのヴァインズ夫人のキャラを楽しむ作品です。「黒わくの封筒を買いだめしておくところなどはいかにもヴァインズ夫人らしい」という冒頭の一文は名文でした。
「長方形の部屋」エドワード・D・ホック/山本俊子訳(The Oblong Room,Edward D. Hoch,1967)
「ジェミニイ・クリケット事件」クリスチアナ・ブランド/深町眞理子訳(The Gemminy Cricket Case,Christiana Brand,1968)
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