「凶兆の空」ジョー・R・ランズデール/友成純一訳(The Crawling Sky,Joe. R. Lansdale,2009)★★★★☆
――ウッド・ティックを訪れたメルセル牧師は、檻に入れられた若者を助けた。若者は妻と二人して森のなかの小屋で暮らしていたが、ある朝、外に出て見ると、首をもがれたアライグマの死骸が……。
魔法書で怪物を呼び出したり、結界を張ったりと、いかにもオカルト探偵!という感じかと思えば、最終的には、うにょうにょのぐちょぐちょに気持ち悪い怪物を、銃で撃ったり斧で打ったりと物理攻撃で退治するうえに、そもそもがガンマンが主役のウェスタンという、かなり間口の広い作品。
「ミイラ捜索」ロン・シフレット/金子浩訳(Keeping It Under Wraps,Ron Shiflet,2008)★★★☆☆
――「おれに警察の案件に思えるな」とカーニーは言った。だがオニールは答えた。「絞め殺された博物館の夜警の心臓が盗まれたうえに、石棺からミイラが消えていてもか?」
いっそほのぼのといってもいいくらいの、型通りのミイラ退治。特攻野郎Aチームや水戸黄門の安心感。「ピックマンの遺作」も切れ味のいいアクションだったし、質の高いエンタメ・ホラーです。
「慈悲の尼僧」ウィリアム・ミークル/夏来健次訳(The Sisters of Mercy,William Meikle,2012)★★★☆☆
――「助けてくれ」とその患者は言った。「〈あまども〉に見られてはだめだ。三人の慈悲の尼僧が!」。王立病院ではここ二週間で十人を超える高齢患者が死亡していた。
幽霊狩人カーナッキの贋作シリーズの一篇。
「墓所の怪事件」ロバート・E・ハワード/中村融訳(The Dwellers Under the Tomb,Robert E. Howard,1976)★★★★☆
――深夜にコンラッドとぼくの部屋を訪れたジョウブ老は、一週間前に死亡した弟のジョゼフが呪いをかけて甦ったと話した。ぼくらはジョウブ老を納得させるため、墓所の柩がからではないことを示そうと……。
これは特集作品ではなく、単発もの。階層を降りて地下に行くにしたがい文明が後退してゆく、太古に閉じ込められた「何か」というアイデアにわくわくします。いいですね、こういう民俗的なおぞましいオカルトものって。
「オーロラの海の満ち干」真瀬純子 ★★★★☆
――「領主様。土地が塩の味のする水で覆われてしまいました。お助けください」。大臣が昔の書物を探しだした。天変地異の際には、領主たる者がオーロラの塔より地中に至りて祈りを捧げよ……そして領主たる私は塔の頂に登り、塔が回転を始めた。
今号から日本人作家の書き下ろしも掲載。クトゥルーとオカルトが多めな傾向の雑誌のなか、こうした幻想譚があるときりりと身が引き締まります。海水を堰き止めている宇宙生物の世代交代のために存在する白い肌の人間……生贄の家系もののアレンジですが、すさまじいまでのイマジネーションです。
「パリの深い闇とブルターニュの遠い微光――『オペラ座の怪人』に宿る不等のコントラスト」高野史緒
「怪奇探偵シャーロック・ホームズ――コナン・ドイルの怪奇趣味」北原尚彦
「中華圏の秘密組織と妖怪ハンターたち」立原透耶
『はらぺこあおむし』のクトゥルー版『The Very Hungry Cthulhupillar』てのが面白そうです。まだ出版はされてないようです。