『少年少女飛行倶楽部』加納朋子(文春文庫)★★★★☆

 加納朋子の非ミステリ青春小説。

 変人と珍名ばかりが集まった中学の飛行クラブ――とは名ばかりの、活動実績なし、部員は部長と副部長だけのクラブ未満。新入生のみづきは、副部長に一目惚れした幼なじみにつきあう形で、そんなクラブに入部したのでした。

 ところが肝心の部長は「空を飛ぶ」という掛け声だけは勇ましいものの、本を読むばかりで何もせず、仕方なくみづきがクラブ活動を軌道に乗せようと(内申書に響くのです!)孤軍奮闘してゆきます。

 無理やり書記にされてしまい活動報告書を提出しなければならなくなったみづきは、トランポリンで擬似飛行体験することを思いつきます。しかしあれだけ空を飛びたがっていた部長の斎藤先輩は、トランポリンの前まで来ると怖じ気づいてしまい……。

 舞台が中学というのが絶妙です。これが大学生だったりすると、作中にも書かれてあったように、もっと具体的で現実的な飛行を実行に移すところですが、なにせ中学生。斎藤先輩ならずとも、口先ばかり名ばかりの飛行クラブでもいたしかたない面もあります。というわけで、目指す夢だけは高らかに、実のところは部員探しやラブコメや人物造形や人間関係に筆が割かれることに相成ります。

 著者は『スペース』で、それまでシリーズの語り手だった駒子のことを、第三者に語らせるという意外な方法を採りました。その結果、人物像も作品世界もぐっと広がりを見せることになりました。本書はその手法を一冊のなかで、しかも語り手を変更することなくおこなうことで、より自然な形で描かれています。

 ごく小さなレベルでは、学校の噂話と、実際の事情との違いというような。嫌われ者の女の子も、所変われば適材適所。神というふざけた名前の意味。スーパーの駐車場に王様停めする車。古書価値のない雑誌の価値。

 空から見る景色は地上から見る風景とは変わって見えるはず。空を飛ぶことを目指す中学生は、空からものを見るように、この世のものごとを別の視点でも見ることができるということを、学んでゆくのでしょう。

 中学一年生の海月《みづき》は幼なじみの樹絵里《じゅえり》に誘われて、「飛行クラブ」に入部する。メンバーは二年生の変人部長・神《じん》ことカミサマ、野球部兼部の海星、不登校高所平気症のるなるな、運動神経はないけど気は優しい球児。果たして彼らは空に舞い上がれるか!? 友情、家族愛、恋、冒険――すべてがつまった傑作青春小説。(カバー裏あらすじより)

  


防犯カメラ