『緋色の研究』アーサー・コナン・ドイル/延原謙訳(新潮文庫)★★☆☆☆

 『A Study in Scarlet』Arthur Conan Doyle,1887年。

 記念すべきシャーロック・ホームズもの第一作です。かなり久々に読み返しました。

 一。死体を棒で叩いていることや、例の「アフガニスタン」発言や、のちのホームズものでも見られる芝居がかった犯人逮捕など、ハッタリの効いた見せ場については読み返してみてもやはり名場面です。

 二。一方、ホームズのキャラクターや推理はあまり魅力的とは言えません。偏った知識や自信過剰な発言など、“愛すべき”とまでは言えないただの変人止まりです。ただし、まだそれほど親しくないワトソンの目を通していることを考えると、これはこれで語り手の内面に忠実なホームズ描写なのでしょう。死体の表情から殺人の状況を推理するくだりなどはいくら何でもトンデモでした。

 三。それから、いくら何でも警察が間抜けすぎて驚きました。探偵能力でホームズより劣るというのではなく、そもそも何も考えず初めに目に飛び込んできた手がかり(だと自分が思うもの)から想像をふくらませるという、探偵とは別ジャンルの存在です。

 四。第二部の回想部分では、秘密結社めいた描かれ方をしたモルモン教団の、死刑宣告の場面の恐怖感が、何といっても秀逸です。似たような死刑宣告はのちの短篇にもありましたね。ジェファソン・ホープによる逃亡~復讐の場面は、伝奇小説ふうでもあり、もっともっと長く濃く書かれてあるのを読みたかったです。

 第一部はいま読むとかなり間延びしていますし、ホームズのキャラもまだそこまで魅力的ではありませんが、読むのを避けては通れない作品です。

 文学の知識――皆無、哲学の知識――皆無。毒物に通暁し、古今の犯罪を知悉し、ヴァイオリンを巧みに奏する特異な人物シャーロック・ホームズが初めて世に出た、探偵小説の記念碑的作品。ワトスンとホームズの出会いから、空家で発見された外傷のないアメリカ人の死体、そして第二の死体の発見……と、息つく間もなく事件が展開し、ホームズの超人的な推理力が発揮される。(カバーあらすじ)
 

 [amazon で見る]
 緋色の研究 


防犯カメラ