「GHOST GOES IN THE DOOR」JON KLASSEN★★★★★
「まぶたのある生きものは」ジョン・クラッセン・絵/小川洋子・文★★★★★
――まぶたのある生きものは/一種類の世界しか見られない。/だからもし、すぐ隣に座る君に/話し掛けなかったとしても許してほしい。
文章のない絵本「GHOST GOES IN THE DOOR」と、小川洋子の文章による「まぶたのある生きものは」。どちらにも『純潔のマリア』のふくろうのようなGHOSTが登場します。モノクロの絵が、白いGHOSTと黒い背景を効果的に見せています。たとえばこのGHOST、白い背景に描かれたとしたら、文字通り人の目には見えないのだと考えると、それだけでぞっとします。
「ジョン・クラッセン・インタビュー 読者を信頼する職人」聞き手・柴田元幸
浮世絵の「白」についての感想などを読むと、なるほど上記作品で白と黒を大事にしているのもうなずけました。
「はじめての舞踏会」リオノーラ・キャリントン/柴田元幸訳/きたむらさとし絵(The Debutante,Leonora Carrington)★★★★☆
――社交界にデビュー間近のころ、あたしはしょっちゅう動物園に行った。いちばん仲良くなったのは若いハイエナだった。舞踏会に行きたくないあたしはすごいアイデアを思いついた。「あんたがあたしの代わりに出ればいいのよ!」
絵本というよりは、古典の漫画化になります。動物が勢揃いした動物園の「イメージ」。文章には書かれていない「出て行っちゃった」その後の騒動。最初と最後にこの二枚の絵があるだけで全体がすごく引き締まって見えます。
「本と女の子」ブライアン・エヴンソン/柴田元幸訳/タダジュン絵(The Book and the Girl,Brian Evenson)★★★★★
――昔むかし小さな女の子を愛する本があった。女の子は毎日本と一緒に過ごした。けれど時は過ぎ、女の子は大人になった。そして世界は変わった。空は暗くなり止まない雨が降ってきた。そして本は一人取り残された。やがてある日、女の子は家から逃げなくてはならなくなった。僕を忘れないで。女の子は忘れなかった。
子どものころにはあんなに大事にしていたのに成長とともに忘れてしまうもの、というテーマを描きながら、そんなすべてを無効化してしまうような世界の終わりが描かれています。もちろん本や物語が無力なのではなく、終わりの前では何もかもが無力なのです。
「MOBY DICK PICTURES」MATT KISH/柴田元幸訳
『白鯨』の全ページにイラストをつけた試み。コンラッド『闇の奥』のほか、カルヴィーノ『見えない都市』も刊行予定とのこと。挿絵ではなく飽くまでイメージ。アメリカン・ポップ・アートみたいな感じであまり好きではない。
「幽霊譚のためのエンディング」I・A・アイルランド/柴田元幸訳/山村浩二絵(Ending for a Ghost Story,I. A. Ireland)
――「何て重い扉!」そう言いながら娘が扉に触れると、扉はいきなり動いてかちっと閉まった。「僕たち二人とも閉じ込められてしまったよ!」
ボルヘスの変名? 怖いところは何もない、強いて言えばだだっ広い灰色の背景が怖いとも言える、男と女だけが描かれた絵が、シンプルな恐怖譚を盛り上げています。余計なものなどない原作には、余計な情報が付け足された絵など不要ということなのでしょう。
「対談 怖い絵本はよい絵本」穂村弘×柴田元幸
それぞれがおすすめの怖い絵本を八冊選んでいます。せなけいこ『ねないこだれだ』、谷川俊太郎&沢渡朔『なおみ』、ヴォルフ・エァルブルッフ『死神さんとアヒルさん』といった定番作品のほか、本書にも収録されたジョン・クラッセンによる『くらやみこわいよ』、最近の怪談絵本シリーズ、酒井純子『金曜日の砂糖ちゃん』、東君平『びりびり』など。
「猿からの質問 立ち会ってみたい瞬間」
室生犀星と萩原朔太郎の出会いと答えた、平田俊子「百年前の前橋駅」。ヘミングウェイの原稿置き忘れに材を採ったレベッカ・ブラウンによる小説「彼が置き去りにしたもの」などがあります。