『最後の錬金術師 カリオストロ伯爵』イアン・マカルマン/藤田真利子訳(草思社)★★★★☆

 『The Last Alchemist: Count Cagliostro, Master of Magic in the Age of Reason』Ian McCalman,2003年。

 カリオストロ伯爵ことジュゼッペ・バルサモの評伝。

 果たして奇跡の魔術師だったのか? 単なる詐欺師だったのか? これまでわたしはカリオストロが革命の黒幕だったというような陰謀論なりフィクションなりを鵜呑みにしたりはさすがにしていなかったのですが、この本を読めば、革命どころか思想のしの字もなかったことがわかり、唖然としました。

 骨の髄まで詐欺師。胸にあるのは、成り上がりたい、ただそれだけ。政治や社会の情勢を読めもしなければ読もうともしないので、革命に巻き込まれ、首飾り事件ではうまく逃げおおせたものの、凝りもせずイギリスで失敗を繰り返した挙句、女に裏切られるという、絵に描いたような悪党の人生でした。

 ではなぜそんな俗物が伝説化したのか――というと、元弟子の一人でカリオストロ破滅に決定的な役割を果たした人物が告発本のなかで、カリオストロフリーメーソンを利用した隠れイエズス会士ではないかと疑っていたから――というのが面白い。詐欺を告発した人物が、同時に神秘化にも貢献していたとは。

 そしてそれをさらに広めるきっかけを作ったのが、我らがデュマの『ジョゼフ・バルサモ』であるらしい。

  


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