『疑惑の影』(Shadow of A Doubt,1943,米)★★☆☆☆

 アルフレッド・ヒッチコック監督。テレサ・ライトジョゼフ・コットンほか出演。

 二人の男から逃げ出すように、チャールズ(チャーリー)は姉一家を頼って東部からカリフォルニアにやって来る。変わり映えのしない毎日に嫌気が差していたニュートン一家の長女のチャーリーは、叔父がやって来るという報せに大喜びする。だが二人組の男はカリフォルニアまで追ってきた。政府の調査員を装いニュートン家にインタビューを申し込む。やがてチャーリーは、チャーリー叔父が隠した新聞記事を見つけ、叔父は連続寡婦殺しの犯人なのではないかと疑い始める……。

 チャールズが、縁起が悪いと言われながらも窓の外を見て安心しベッドに帽子を放り投げてしまったり、写真に撮られることを病的に嫌がったり、ワルツ「メリー・ウィドウ」が会話にのぼることを避けたりと、登場人物がまだ何も疑惑を感じていない段階で、鑑賞者に向かって疑惑に向けて盛り上げてゆくサスペンスはさすがのもの。

 ですが姪チャーリーが疑惑に気づいてからはサスペンスが失せてしまいます。チャーリーはそれ以上疑惑に突っ込むわけでもなく、逃げるでもなく戦うでもなく、叔父を避けつつ現状維持。叔父は叔父で、刑事よりもチャーリーを何とかすれば大丈夫とでも思っているのか、やけに絡みます。

 幼いころに大けがをして働きに出てからも苦労したチャールズが、暢気に「私たちって似ていると思わない?」とのたまったチャーリーにイラっと来て、社会の現実を教えてやろうと意地になったのかどうか。

 チャールズに連れられて行ったバーでチャーリーの同級生が給仕をやっていたりした場面もあり、夢見る少女が他人にも夢を強要して、現実にぶち当たってしっぺ返しを喰らう物語なのかもしれません。

 警察にチャールズの写真が必要ということは寡婦殺しには目撃者がいたということなのでしょう。一方でもう一人の容疑者が死んで「事件は解決」となっています。が、常識的に考えて、容疑者の一人が死んだからそれで終わり、ではなく、写真での確認もおこなっているはずです。そう考えるとチャールズは(少なくとも写真による確認では)シロだったのでしょう。

 ですが仮に殺人犯ではないとすると、指輪のイニシャルが被害者と一致したという事実や、新聞記事を隠す理由や、チャーリーを殺そうとする理由がなくなってしまいます。チャーリーに被害者の指輪という「証拠」をプレゼントしてしまったからこそ、チャールズはチャーリーを殺さなくてはなりません。

 ……という感じで何とか筋道立てようとしましたが、後半は警察もチャールズもチャーリーも、みんながみんなぐだぐだで、集中できませんでした。

 チャーリーが刑事に気づく場面には何の説明もなく場面が切り替わっていますが、演出というよりはすべてがこんなふうに説明不足な切り貼りという感じで、印象的なシーンは多々あれど全体的にややだるい映画でした。

 チャーリーの父親ジョーと友人ハービーは二人ともミステリ好きで、そこここに差し挟まれる殺人談義が愉快でした。

  


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