『ミステリマガジン』2018年1月号No.726【ミステリが読みたい!2018年版】

 今年のベストテンは(特に国内篇は)手堅く、へえこんな作品もあったんだ読んでみたいな、という意外性はありませんでした。それでもベストテン圏外には、反時系列の香港ミステリ陳浩基『13・67』、事件前にトリックを見破る井上真偽『探偵が早すぎる』など、面白そうな作品がありました。

 アンケートには久々に佳多山大地が寄稿していましたが、あまり特徴の出ていない文章なのが残念。一方、山崎まどか山崎まどからしい〈乙女〉の視点からコメントしていて、こういうその人ならではの視点からのコメントは読んでいて発見に満ちていて楽しい。
 

「おやじの細腕新訳まくり(7)」田口俊

「六月のある朝の十分」フランシス・クリフォード/田口俊樹訳(Ten Minutes on a June Morning,Francis Clifford,1970)
 ――スレデスは射撃の腕を見込まれ、家族を人質に暗殺を命じられた。標的は合衆国大統領の特使。スレデスはパレードを見渡せる場所にある女の部屋に上がり込んだが、日に日に重圧は強くなる。

 著者のフランシス・クリフォードには『裸のランナー』『孤独の時刻』『間違えられた男』といった代表作があります。絶望に追い込まれた男の焦燥感と、いよいよの瞬間の悲痛な叫びに、胸が息苦しくなります。
 

「書評など」
陳浩基『13・67』は「ミステリが読みたい!」でも紹介されていました。「香港警察の名刑事、クワン」が関わった六つの事件を「現在(二〇一三年)から過去(一九六七年)に遡る形ですづった連作短篇集」。個々の短篇のレベルが高くて面白そう。

ダニエル・コール『人形は指をさす』シリアルキラーものですが、シリアルキラー逮捕→無罪→再犯→逮捕→刑務所→バラバラ殺人の頭部が獄中にいるはずのシリアルキラーの顔→ロンドン市長や主人公の警官への殺害予告、とここまでが600ページのうちの50ページまでのあらすじだそうです。はちゃめちゃです。

天祢涼『希望が死んだ夜に』は、どちらかというとラノベ寄りというイメージのあった著者の、一般向けミステリでしょうか。「わかんない」ことを「わかろうとする物語」。

今村昌弘『屍人荘の殺人』は鮎川賞受賞作。「クローズド・サークルというフレーズも生ぬるく」という表現だけで期待はふくらみます。

フランスし・ハーディング『嘘の木』。翼のある人類の化石を発見した牧師で博物学者が、捏造とのバッシングから自殺してしまう。残された娘は捏造事件の真相究明に乗り出すなか、宗教的な真実を得るための「嘘の木」の存在を発見する。文芸部門で紹介されていますが、版元の東京創元社ではファンタジーに分類されていて、コスタ賞の児童文学部門を受賞しているなど、ジャンル混交な作品のようです。

クリストファー・プリースト『隣接界』は、新☆ハヤカワ・SF・シリーズの一冊。
 

「迷宮解体新書(102)山本巧次」村上貴史
 ベストテンにも選ばれた『開化鐵道探偵』や『阪堺電車177号の追憶』の著者です。

「ミステリ・ヴォイスUK(104)セミとキリギリス」松下祥子

「時代的だよ!ミステリー(4)「忠臣蔵」きっかけも黒幕もミステリー」ペリー荻野
 

「「オリエント急行殺人事件」小特集」

「ジェイムス・プリチャードに訊く 映画「オリエント急行殺人事件」と今後の展望」
 アガサ・クリスティーの曾孫でアガサ・クリスティー社会長兼CEOのインタビュー。

ケネス・ブラナー監督インタヴュー」
 監督・主演のケネス・ブラナー・インタビュー。なるほど巨大な髭にはそういう意図が。 
 

  


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