『ヤオチノ乱』(3)泉仁優一(講談社コミックDAYSコミックス)
いつの間にか第3巻が出ていました。しかも連載が終了していました。最終巻です。いい漫画なんですけどね。
第1巻、第2巻では、主人公コンビが一流の忍びとして認められるべく、チーム対抗の選抜試験に挑む様子が描かれていました。この第3巻では、晴れて試験に合格した二人が、四季賞準入選作「無常の霧音」と同じく、世界最古の諜報組織として機密ファイルを巡ってCIAと争うことになります。1・2巻でもキリネたちの行動原理は論理的だったとはいえ、まだ忍術対決の様相が強かったのですが、本書では組織力と観察眼と推理力を駆使した騙し合いの趣が強く、一級のサスペンスになっていました。そこに最後の最後に忍者っぽいアイテムを投入してくるセンスが冴えています。ファイルの隠し場所に関する心理的な盲点もミステリ的です。
絵柄にモンキー・パンチっぽいところがあるのが好きです。あの細目白目のおっさん、政府関係者かと思っていたのですが、忍者だったんですね。
シンヤの体質も正体も結局掘り下げられないまま終わってしまいました。それどころか途中でフェイドアウトしちゃいましたね。
番外編「あちらの世界」泉仁優一(コミックDAYS)
単行本未収録。幼き日のキリネと八百蜘家の宿命を綴った掌篇。
『アフタヌーン』2019年12月号(講談社)
「フラジャイル」66「岸先生、慰安旅行です!」草水敏/恵三朗
今回は息抜き回。
「おおきく振りかぶって」157「はじまりの冬」ひぐちアサ
勝つために何が出来るか“考える”。プレーだけじゃない。これが「おお振り」流です。
「天国大魔境」20「不滅教団(3)」石黒正数
衝撃的な前回のその後、とどさくさまぎれ。そしてヒルコの正体が明らかに?
「ヴィンランド・サガ」166「結婚」
長かったバルト海戦役が終わり、故郷に戻って次の冒険――のその前に。次号予告「長い旅が始まる」ではなく「長い旅の準備が始まる」なのが『ヴィンランド・サガ』っぽい。
「猫が西向きゃ」11「The tail is on the stairs」漆原友紀
突然階段が急になるフローの原因は……。今回の話は今までのエピソードのなかでも一番『蟲師』っぽいところがありました。
「いんへるの」「姫かたり」カラスヤサトシ
――毎夜枕元に現れる姫君の幽霊は何かをつぶやいていた。ようやく聞き取れたその声に返事をしたところ……。はじめ作者名に気づかなかったので、まさかカラスヤサトシが描いているとは思いませんでした。すごく後を引く、怖くて厭な怪談です。
「十角感の殺人」5・6&「四コマ劇場」綾辻行人/清原紘
絵にされると「何だか気持ち悪いと思わない?/このホールの壁 目が変になっちゃう」に説得力があります。まだ殺人は起きていません。原作はどうだったか忘れちゃいましたが、これまでのところ結構スローペースです。
「ワンダンス」10「初コンテスト(中)」珈琲
コンテスト本番。以前にも感じましたが、漫画という静止画なのに、動きのある絵の躍動感がすごい。美少女漫画『のぼる小寺さん』、ギャグ漫画『しったかブリリア』、そして今回のダンスと、めちゃくちゃ表現の幅がある作家さんです。
「スキップとローファー」15「いろいろの夏休み」高松美咲
女子たちのお泊まり会。いつの間にやら友だちになっていた四人ですが、キャラを立てつつちゃんと仲よくなってます。当初いじわる役かと思っていた江頭ミカが、いちばん普通の女の子として、個性的なみつみたちを映すポジションになっているのがほっこりします。
「くじらの背中」藤田直樹
――たけしは給食を食べるのが遅い同級生をドッジボールに誘い、そして二人は友だちになった。けれど中学になり、二人は少しずつ変わってしまった。鯨井から話しかけられても、たけしは幼いころのように仲良くできない。
四季賞2019秋のコンテスト四季大賞受賞作。「うちとわたし」で2017審査員特別賞を取った方です。思春期の心の揺れを描いた作品です。みんな素直になれないけれど、決して曲がってはいないから、とても清々しい読み心地でした。親身になっている同級生と何も考えてない同級生がいたり、細かい描き分けも記憶に残ります。「手を掴んでくれた時から」という何気ないひとことがとても胸に響きます。冒頭の行動もけっこう強引でしたが、ラストシーンの思い切った行動からもわかるように、やっぱりみんな変わってはいないんですよね。
『ULTRAMAN/公式アンソロジー』清水栄一原作×下口智裕監修(小学館ヒーローズコミックス)
『ウルトラマン』の続編という設定の漫画『ULTRAMAN』オマージュ漫画のアンソロジーです。園田俊樹・小原愼司らが参加しています。
漫画『ULTRAMAN』は、ウルトラマンが地球を去ったあとの地球で、ハヤタ元隊員の息子がイデ元隊員の開発したスーツを着て宇宙人と闘うというストーリー。「地球の平和は我々が守っていこう」という『ウルトラマン』最終回のキャップの台詞を実行しているという点で、もっとも正当的な続編と言えるでしょうか。
島本和彦はイラストを寄稿。ULTRAMANスーツの中の人間の口を描いているところがこの人らしい。
「過去からの楽園」小原愼司
飽くまで人間がスーツを着て戦うという設定の『ULTRAMAN』において、巨大なULTRAMANと怪獣を戦わせるという『ウルトラマン』リスペクト溢れる作品です。それでいながら男女の淡い恋愛も描かれ、著者の持ち味が遺憾なく発揮されています。
「光の巨人記念館へようこそ!」園田俊樹
いかにも二次創作的なギャグやキャラの掘り下げが多いなかで、肉弾戦と頭脳戦いずれも兼ね備えた正統派の格闘アクションです。『ウルトラマン』関連の展示物を集めた記念館に侵入した宇宙泥棒と、“セブン”諸星弾が戦います。戦い方のバリエーションが豊富ですが、力で勝る相手を堂々と受け止めるシーンで〆るのがまた格好いい。飽くまでウルトラマンが去ったままの世界という設定なので、この“セブン”は『ウルトラセブン』とは無関係らしいです。
[amazon で見る]
・ 「コミックDAYS」