『ハコヅメ』15、『BADON』3、『スインギンドラゴンタイガーブギ』2、「手指の鬼」鏡ハルカ(『アフタヌーン』2021年1月号)

『ハコヅメ』(15)泰三子(講談社MORNING KC)
 「奥岡島事件の恩賞」シリーズ完結。巻頭の第125話で「恩賞」の意味が明らかになりました。完結回第129話でも明らかな通りこのシリーズは源父子の話でした。第14巻第123話、塩谷の顔や性格や台詞「俺は自分がラクしたりサボったりするためなら多少の手間は惜しくない」から、塩谷=交番所長かと思っていたら、それはミスディレクションだったようです。第125話で「塩谷《おまえ》は伊賀崎さんを信奉して」云々とあることから、信奉者の真似をしていたということなのでしょう。第128話でイケメンで優秀な如月部長が後輩に劣等感を持っていた、そんなシリアスな場面を台無しにする川合の雑さに笑いました。川合と藤部長の絆(?)が描かれる131「暴走ゴリラ制圧事案」、133「ハングリーバンクシー精神」。132「牧高がゆく」は歴史オタク牧高のすげえめんどくさいオタクぶりが描かれていました。
 

『BADON バードン』(3)オノ・ナツメ(スクエア・エニックス ビッグガンガンコミックス)
 ライバル店(?)「タットラー」との絡みが増えてきました。あのサングラスの新聞記者は、タットラーの息子と関わりがあったことがわかりました。ただ、それでもよくわからないキャラなままなのは変わりありません。一方2巻でリコを夕食に誘わせたタットラーの母親は、どうやらリコに本気なようです。大人の男女の駆け引きはオノ・ナツメっぽくていいところです。1巻に描かれた麻薬煙草事件がふたたび登場し、タットラーが麻薬煙草の情報を入手してしまいましたが、旧友との揺るぎない信頼が難局を乗り切りました。こういうハードボイルドな感じもオノ・ナツメらしいところです。借金の返済日があるためこれからも定期的に関わりのありそうなハートのツテも登場しました。ハートはどうやら組織でそれなりのポジションだったようです。ちょっと意外でした。
 

『スインギンドラゴンタイガーブギ』(2)灰田高鴻(講談社MORNING KC)
 この巻もレコードを模したジャケットが格好いいし、「ロックンロールも、ヒップポップも(中略)なかった。ジャズが在った。」という帯のコピーも格好いいです。プレイリストも第2段に更新されています。とらのおかげでバンドは専属契約を結びました。それぞれに音楽に対する思いはあるようです。丸山は亡き姉の思いを音楽に託し、小田島もまたアメリカ軍のパーティーでベーシストと競演したことから音楽に対する思いを新たにしました。――という感じでみんなが夢に向かって……というときに実家から魔の手が。それにしても誰も彼もがぽんぽん殴る漫画です(^^。発狂するチャーリーが面白すぎますが、「やった!」という感想からすると、感情的なものではなく意図的なものだったのでしょうか。。。
 

アフタヌーン』2021年1月号(講談社

「手指の鬼」鏡ハルカ
 ――宿場に住みつき人を襲う鬼がいたが、手指の欠けている者は食わなかったので、討伐隊は紺の布で指を隠して任にあたった。首を落とされる前、鬼は手の指が揃わぬ人間を食わぬ理由を語った。「わたしの居た鬼の集落では、人間の幼子を攫い大切に育て、七つになる前に食らう「稚児食い」という習わしがあった。わたしは定めを受け入れるその子供が嫌いだった。あと三日耐えればいい。そうすればこの眼差しから解放されるのだ……」

 四季賞2020秋のコンテスト準入選作。四季賞が公式サイト「モアイ」や「コミックDAYS」で公開されるようになってから本誌を買うことはなくなってしまっていたのですが、「モアイ」で読んだこの作品があまりにも素晴らしいため保存のため本誌を購入してしまいました。

 ひとことで言えば食い物である人間の子と交流するうち心を寄せてしまった鬼の話で、それだけならよくある話ではあります。けれど何より、圧倒的に上手いのです。まずふつうにわかりやすい。線もきれいで絵も見やすいですし、最初の一ページでどういう設定で何が起こっているのかすうっと入ってきます。そして著者の凄さが凝縮されているのが最後の三ページでしょう。「そんな目」と言いながらその肝心の相手の目を描かないセンス。直接的な言葉や説明はなくとも、それまでの描写と構図と表情で伝えられる構成力。

 思えば大ヒット中の『鬼滅の刃』も台詞廻しに定評のある作品でした。例えば第一話「生殺与奪の権を他人に握らせるな」。あそこで「俺は敵じゃない」「もっと強くなれ」といった直接的で説明的な台詞しか書けないようなら、魅力は半減していたことでしょう。

 ラスト四ページ前にある、若い侍の横顔のアップ。あそこに短い後れ毛を描く必要は、たぶんないんです。なくても成立する。けれどあの一本を描くことで、読者もその一本を意識せざるを得なくなり、髪の毛一本まで張り詰めていることを予感させ、ただの「若い侍」が当事者に――モブではなく重要人物なのだと誘導する手がかりになっているのだと思います。
 

ヴィンランド・サガ」177「西方航路11」幸村誠
 いよいよヴィンランドに向かって出発するようです。
 

「Tie your shoes」川合円
 ――夏休みの終わり、日本人が隣に引っ越してきた。学校では言語の壁に苦労しているようだった。僕は学校でノゾムに何もしなかった。学校が終わったあとはノゾムが得意なゲームを一緒にやることで償いをした気分になった。12月、父親の都合でまた引っ越すらしい。「何か日本語教えてよ」「      。バイバイ」意味は教えてくれなかった。

 四季賞佳作「もうけもん」の著者による読み切りデビュー作。
 

 [amazon で見る]
 ハコヅメ 15 BADON 3 スインギンドラゴンタイガーブギ 2 アフタヌーン 2021年1月号


防犯カメラ