『虚構の男』L・P・デイヴィス/矢口誠訳(国書刊行会 ドーキー・アーカイヴ)★★★☆☆

 『The Artificial Man』L. P. Davies,1965年。

 本書は、まるで書けない作家の物語のように幕を開けます。

 小説家のアランが初長篇のアイデアもタイトルも浮かばずにいたところ、友人のリーから「五十年後を舞台にした架空の伝記」というアイデアを示唆されます。乗り気になったアランは、やがて「ヘイガン・アーノルド」という主人公の名前を思いつき、満足を覚えました。

 その後、自分を追い越したはずのバンが、戻って来ずに消えてしまったという出来事がアランの身に起こりますが、ドクター・クラウザーからは、以前からたびたび起こしていた「意識喪失」だと片づけられてしまいます。

 ところがまだ誰にも話していないはずの「ヘイガン・アーノルド」を名乗る人物から電話がかかってきたショックで、アランは気絶してしまいます。

 ここまでのところでもまだ「書けない作家の苦悩と幻覚」らしき内容ではありますが、謎のパーツが顔を出して来たため、不穏でサスペンスフルな空気が漂って来ました。おまけにリーとドクター・クラウザーがちょこちょこと秘密めかした会話を交わす様子が描かれるので、どうやら単なる書けない作家の話ではないらしいぞ、ということがわかって来ます。

 あとはアランが見ず知らずの女性と出会ったところから、物語は急転直下、SFスパイ小説へと早変わりするのです。

 その後の展開はめまぐるしいの一言に尽きますが、よくできた作品で、ぶっ飛んではいますが壊れたところはなく、わりとふつうに人にお薦めできる作品だと思いました。

 読んでいるあいだは面白さのあまり気づきませんでしたが、アランが実は主人公ではなく、途中からは別の人物が中心になる、というのは、確かに普通じゃありません。

 時は1966年、イングランドの閑静な小村で小説家アラン・フレイザーが50年後(2016年!)を舞台にしたSF小説の執筆にいそしんでいるところから物語は始まる。気さくな隣人、人懐っこい村の人々はみな彼の友だちだ。やがて一人の謎の女と出会い、アランの人生は次第に混沌と謎の渦巻く虚構の世界に入り込んでいく――国際サスペンスノベルか、SFか? 知る人ぞ知る英国ミステリ作家L・P・デイヴィスが放つ、どんでん返しに次ぐどんでん返しのエンターテインメントにして、すれっからしの読者をも驚かせる正真正銘の問題作!(カバー袖あらすじ)
 

  


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