『さらば、シェヘラザード』ドナルド・E・ウェストレイク/矢口誠訳(国書刊行会〈ドーキー・アーカイヴ〉)★★★☆☆

 『Adios, Scheherazade』Donald E. Westlake,1970年。

 スランプに陥ったポルノ作家が、とにかく文章を打とうとして妄想や悩みや雑感を書きつづるという、基本的にはおバカな話です。『さらば、オマ×コ野郎』というタイトルでは編集者の許可が下りないだろうとか、語り手夫婦が夫のアレをオスカーと名づけるとか、くだらない小ネタには事欠きません。

 途中までは単純にそんなバカ話だと思っていたのですが、以前に打った章を受けて新しい章が書かれているので、以前の章が読まれることで発生した出来事も新しい章には組み込まれることになります。そうなれば当然のことながら何が現実で何が創作なのか読んでいる側にはわからなくなってくるのですが、少なくとも原稿を信じるかぎりでは、創作に過ぎないことが事実を誤解されたために大問題に発展してしまったようです。

 これがサスペンス・ミステリならば、そういった窮状からさてどうやって逃れるのか――ということにもなるのでしょうが、本書では語り手のエドは悲しいことにどんどん絡め取られてゆくだけです。それなのにやれることは書き続けることだけ……というのが黒い笑いを誘いました。

 いい装幀です。

 ポルノ小説のゴーストライターエド・トップリスの苦悩は、締切が近づいてもまったく書けないこと。いざ書き始めても、自身の生活や夫婦間問題のあれこれが紛れ込んで物語はなかなか進まない(そして小説は延々と1章25ページが繰り返される!)。ある日、書きかけの原稿が原因でエドは思いもよらないトラブルに巻き込まれることになる……リチャード・スターク名義の〈悪党パーカー〉シリーズや〈泥棒ドートマンダー〉シリーズでおなじみのコメディ・ミステリの巨匠ウェストレイクによる、仕掛けに満ちた半自伝的&爆笑のメタ奇想小説がついに邦訳!(カバー袖あらすじ)

 [amazon で見る]
 さらば、シェヘラザード 


防犯カメラ