シリーズのファンではないので単にアンソロジーとして購入したのですが、掘り出し物は見つかりませんでした。
漱石『それから』、フォークナー『サンクチュアリ』、国枝史郎『蔦葛木曾棧』、ル・グイン『ふたり物語』、クロフツ『フローテ公園の殺人』は、長篇からの一部抜粋ですが、いずれも既知の作家なのでそれでも問題なし。ル・グイン『ふたり物語』はSFではなく「十代の少年少女の恋愛を扱った物語」だというので、冒頭だけとはいえ試しに読んでみたのですが、少年の一人称の訳文がちっとも少年らしくないのでしらけます。
未知あるいは未読の作家・作品は、小山清「落穂拾い」、梶山季之『せどり男爵数奇譚』、坂口三千代『クラクラ日記』の三篇。
おじさん作家と古本屋の少女の交流を描いた小山清「落穂拾い」が、ビブリオ古書堂ファンには親しみやすそうです。「仄聞するところによると、ある老詩人が長い歳月をかけて執筆している日記は嘘の日記だそうである。」という冒頭の一文が素晴らしい。
梶山季之『せどり男爵数奇譚』は古書小説ということで以前から気になっていたのですが、サラリーマン小説みたいな薄っぺらい文体が受けつけず、これからも続きを読むことはないでしょう。
坂口三千代は坂口安吾の妻。クラクラとは彼女が営むバーの名前。妻の目から見た安吾は、まあ、何というか、それを受け入れちゃう奥さんというのも、夫婦ともどもお近づきになりたくないと思いました。
ほかにアンナ・カヴァン「ジュリアとバズーカ」、太宰治『晩年』より「道化の華」、ヤング「たんぽぽ娘」、宮沢賢治『春と修羅』より「永訣の朝」「昴」「真空溶媒」。