『La última salida』Federico Axat,2016年。
二児の父であるテッドが悪性腫瘍をはかなみ自殺を試みようとしていたところ、すべての事情を知る組織の人間リンチが現れ、法で裁けない悪人殺しを持ちかけられる――。
衝撃的とはいえある意味ではベタベタのミステリとして幕を開けた本書は、これもまたベタなことにテッドが騙されていたことに気づくという第一部が終わった時点で、そこから異様な作品に姿を変えます。
第一部が妄想だという第二部が妄想だという第三部が妄想だという第四部が……端的に言えばそういう作品で、特に一時期の日本ではこの手の作品が多くて食傷気味だったのですが、日本の作品に多かった「幻想で逃げる」という逃げ道のある結末ではなかった点は特筆すべきでしょう。
アルゼンチンのミステリといえば広い意味ではボルヘスをはじめ、ほかにハヤカワで出ていた『世界名探偵倶楽部』などもいかにもマジック・リアリズムというイメージに相応しい南米作品でしたが、同じくハヤカワの作品で『ブエノスアイレスに消えた』や本書などを読むと、南米文学も新しい段階に突入しているのだなと感じました。
テッド・マッケイは自分の頭に向けて拳銃をかまえた。妻と娘が旅行中の今日、とうとう自殺を決行するのだ。引き金に指をかけたそのとき、玄関の扉が激しく叩かれた。リンチと名乗った突然の来訪者は、ある「組織」からテッドへ依頼を伝えに来たと語りはじめる。その内容はあまりにも常軌を逸したものだった……。迷宮のごとき物語の果てには何があるのか。異様なるイメージと予測不能の展開が連続する、南米発の“奇書”(カバーあらすじ)
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