『La Brava』Elmore Leonard,1983年。
ラブラバの名がタイトルになっているのが皮肉です。何せラブラバは結局のところヒーローにはなり得なかったのですから。そういう意味で主演の地位に君臨していたのは、ラブラバ憧れの女優ジーン・ショーでした。ラブラバもノーブルズたちもみなファム・ファタルの掌の上で踊らされていただけで、所詮は脇役でしかありませんでした。それでもラブラバはヒーローになれそうなところまでは来ていました。守るべき者のためならどんなことでもするし、守るべき者が悪であったとしてもそれは変わらない、ダーク・ヒーローだったとしても。それだけに最後の2ページは哀れでなりません。まあ虚像に恋するのが悪いのですが。考えてみたら、馬鹿な人間と(恋ゆえに)盲目な人間ほど操りやすいものはないのでしょう。
出演映画の台詞を「引用」するジーンの言動は、どこまで演技なのかわかりません。すべてが演技だと覚悟して初めから傷を小さくしようとでもしていたかのように、ドライなラブラバ。文体自体が乾いているのだからラブラバがドライなのも当然といえば当然です。それでも、最後にうそぶく様子からは、精一杯の本音が見えるようでした。
『La Brava』を『ラ・ブラヴァ』とやらずに『ラブラバ』と表記するのがセンスあるなあ……と思ったのですが、スペイン語では「v」の発音もバ行なんですね。
「その映画スターは彼が生まれて初めて恋した相手だった。十二歳のときに」シークレット・サーヴィスの元特別捜査官で今は写真家のジョー・ラブラバは、かつての有名女優ジーン・ショーと出会った。憧れの女《ひと》を目の前にして、彼の心は浮き立った。徐々に近づいていくふたりだが、ジーンの周りには財産狙いの悪党どもがたむろする。ラブラバは女の窮地を救うべく動き出すのだが……。陽光溢れるマイアミのサウスビーチを舞台に、巨匠が描き上げる男と女の影。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。待望の新訳版!(裏表紙あらすじ)
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