『友達以上探偵未満』麻耶雄嵩(角川書店)★★★☆☆

 著者にしてはとんがってもいないし、犯人当ての趣向ゆえか問題編も地味だし、どういう作品なんだろうこれは……?と訝しみながら読み進めてゆきましたが、最後まで読めば派手でこそないもののやはり著者らしい一筋縄ではいかない作品でした。
 

「伊賀の里殺人事件」(2014)★★★☆☆
 ――放送部の伊賀ももと上野あおは名探偵になりたかった。放送部に入ったのはミステリ研がなかったからだ。だがとうとう部長から取材を命じられた。伊賀の里ミステリーツアーの参加者は忍者か芭蕉の恰好を義務づけられていた。社長とその地位を狙う姪と甥、姪に恋する青年と妹と友人、芭蕉の末裔を詐称する似非俳人、黒ずくめの謎めいた人物だった。そしてツアーの最中、黒ずくめが殺された。

 「黒ずくめは間違って殺されたのだ」という仮定に対する「男女を間違うはずがない」という障害が、ある見方(AとBの二人しかいない黒装束の片方Aなら、もう一人の黒装束が自分以外のBだと衣装だけで判断できる)を取ることで氷解するところはシビれました。それでもまだ(当の黒装束Aが殺されているのだから)常識的に考えるとあり得ないその見方が、もう一ひねり(第三の黒装束がいた)することできれいに収まる二段構えの解決になっていました。もとはNHKの推理番組「謎解きLIVE 忍びの里殺人事件」の原案作品だそうです。「映像だと装束で把握しやすいんですけど」(『ミステリマガジン』2018年7月号)という著者の言葉に納得です。
 

「夢うつつ殺人事件」(2015)★★★☆☆
 ――美術部の初唯は写生中にうたた寝をしてしまい、美術部の愛宕を殺すという男女の会話を聞いてしまう。だが声の主がいるはずの美術室には当の愛宕を除けば女生徒しかいなかった。一週間後、初唯の鞄に学校の怪談そのままに赤い手形がついていた。愛宕殺しの計画を知られた犯人が脅迫しているのでは……不安を感じた初唯と友人の怜美は、名探偵との噂のあるももとあおに相談に来た。

 ここに来て何やら著者らしい妙な具合になってきました。もしやこのシリーズは二個一組という趣向なのでしょうか。その二個一組(別々の二つの会話が一つの会話に聞こえた)をすんなり耳から入れてしまうのは夢うつつだったからだということで何とか説明できますが、そもそも二個一組になるのはさすがに偶然が過ぎて、如何にミステリの世界であり麻耶氏の世界であっても納得しがたい不満足感が残りました。
 

「夏の合宿殺人事件」(2016)★★★☆☆
 ――転校生のあおが探偵を目指していると聞いて、ももも自分の夢を諦めまいと決心した。けれどあおから見るとももはあまりにも探偵の才能がなかった。ももにはワトスン役になってもらおう。中学校の文芸部の合宿で、同じ宿のバレー部員が殺される事件が起こった。現場を見てもももはやはり呆然とするだけで何もできなかった。

 ももとあおが如何にして出会い二人で探偵を目指すことになったかを描く前日譚に当たります。二個一組の趣向ではなかったようですね。ももとあおと空がホームズ&ワトスンの三人二役と言えないこともないですが。木更津悠也シリーズはワトスンが探偵をコントロールしていましたが、こちらは逆ですね。ワトスンを探偵の精神安定剤とする発想自体はそれこそホームズ(パロディ)の時代からあったと思いますが、そこは麻耶氏のこと、ももとあおの関係はどことなく歪んでます。

 一つの手がかり(ハサミだったり死体の向きだったり)から何通りかの解釈が生まれるところは推理合戦の面白さです。

 「兄は忍者に憧れる現実主義者だった」とか「雨音って火星人が人類にかけてる催眠術じゃないかと睨んでるんだけど」とかいうお馬鹿な文章のオンパレードでした。

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