『半分世界』石川宗生(東京創元社)★★☆☆☆

『半分世界』石川宗生(東京創元社

 『Cloven World and Other Stories』2018年。

 第7回創元SF短編賞受賞作を含む四篇収録。ワンアイデアを提示してその設定をひたすら詳細に書き連ねるだけで、アイデアからの発展は何一つありません。出オチをどこまで引っ張れるかに特化したような作品でした。奇想を淡々と記しているのは三崎亜記作品を連想しますが、あちらよりもさらに無味乾燥です。
 

「吉田同名」(19329 Daisuke Yoshida,2016)★★☆☆☆
 ――吉田小夜子夫人が夕食の支度をしていると、突如、凄まじい轟音が響いた。恐る恐る廊下に顔を出すと、玄関扉に五人ばかりの男が挟まっていた。誰も彼も、吉田大輔氏。

 同姓同名の「同名吉田」ではなく、吉田大輔個人が大量発生するという話であり、それだけの話でもあります。タイトルは吉田さんたちが社会に反旗を翻そうとする計画の一つ「吉田同盟」のもじりのようです。
 

「半分世界」(Cloven World,2016)★★★☆☆
 ――その家はドールハウスさながら、道路側のおよそ前半分が綺麗さっぱり消失していた。崩壊した音を聞いた者はおらず、ある朝近隣住人が通りかかると既に半分に割れており、藤原さん一家はそこで平然とコーヒーを飲み、ワイドショーを観て、歯を磨いていたという。ケンスケ氏。翻訳プロダクション副社長であり、書斎には大量の本が積み上がっている。ユカさん。目を引くのは三つの鳥かご。カズアキくん。引き籠もり。サヤカちゃん。男性陣からの人気が一番高い。

 アイデアとしては「吉田同名」よりもこちらの方が面白い。半分になった家でそれまで通り生活する家族と、そのウォッチャー。ウォッチャーたちの存在はワイドショー的な覗き見趣味でしかありませんが、平然としている藤原家の存在がわけわからなさすぎて引き込まれてしまいます。
 

「白黒ダービー小史」(White and Black Derby,2017)★★☆☆☆
 ――白黒ダービー。その競技の名称はこの町にあるホワイツ、ブラックスという二つのクラブに由来する。現在、町は横五×縦一〇の正方形に分けられ、それぞれがゾーンと呼ばれている。明確なプレー時間はもうけられておらず、ボールの進路もほとんど予測できないため、仕事中でもおかまいなしだ。ホワイツとブラックスの合同パーティーで、レオはマーガレットに一目惚れした。

 町中を二分するスポーツ選手のロミオとジュリエット……ですがそこは作者のこと、恋愛ものにもスポーツものにもなりません。タイトル通り白黒ダービーの歴史がひもとかれてゆきます。
 

「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」(Bus Stop Nocturne,2018)★☆☆☆☆
 ――バスを降りると赤茶けた未舗装の十字路だった。岩陰には日射しを避けて大勢の人がいた。「四七一番のバスの乗り場はどこですか?」「このあたりのバスはぜんぶここを通ることになっている。一番から九九九番までそっくりな」「時刻表とかはないんですか」「せめて何日にやってくるかわかればな」

 本書のなかではもっとも現代小説っぽい。それだけにどこかで見たような印象を拭えません。いつ来るとも知れないバスを待つ間の、出会い、思弁、社会活動etc。

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単行本半分世界 文庫半分世界(文庫) 


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