ハヤカワ、クリスティ文庫創刊

 ハヤカワの〈大きなサイズ文庫〉といえば、『ダニエル・キイス文庫』で失敗し、『epi文庫』で成功した、という印象があるのだけれど、さて今回は――と楽しみにしていたのだが。店頭に並んでいるのを見ると……失敗だな、今回は……。

 『ダ・ヴィンチ』12月号の特集によると、今回の新創刊に当たって専門のリサーチ会社に依頼して全国区のアンケートをとったんだそうです。で、その結果が、クリスティの読者には30代〜50代の女性が多い、と。彼女たちの「意見もずいぶん参考に」した結果、なんとできあがった装幀はハーレクイン・ロマンス! まさか『謎のクィン氏』とひっかけてるわけじゃないだろうが……。 担当編集者いわく「非常に満足しています」。

 うわーこれじゃデュ・モーリアの二の舞じゃないか! 営業的には売れ線を狙うのは当然なんだろうけども。

 心配なのは編集部長の言葉。「クリスティーは、現存する代表的なトリックのほぼあらゆるパターンを考え出した作家ですからね。」おいおいおい……これがミステリ専門店の編集部長のセリフなんだもんなあ。「チェスタトンは〜」とか、あるいは「カーは〜」とかならまだわかるけど……。

 ただしこの編集部長、「トリックのことを抜きにしても、その時代の風物や生活描写にも敏感で、登場人物がとても活き活きとしている。」とも仰ってます。自覚的なのか無自覚なのかわからないけど、ミステリ専門店がクリスティをミステリ作家としてではなく、風俗作家として(はからずも)正しく再評価しようとしているのが面白い。


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