『巌窟王』1 前田真宏・漫画(講談社アフタヌーンKC)★★★★☆

 パリの子爵アルベールとフランツは、月旅行中に、モンテ・クリスト伯と名乗る謎めいた男に出会った。伯爵はアルベールの命を助け、地球での再会を約す。

 後日、アルベールは婚約者のユージェニーやフランツたちを招いてパーティを開いていた。そこへ約束通り伯爵が参上した。だが伯爵こそは、アルベールの父フェルナン、ユージェニーの父ダングラール、フランツの婚約者の父フィルフォール判事の奸計により投獄された、エドモン・ダンテスその人であったのだ。

 大デュマの名作『モンテ・クリスト伯』[bk1amazon]を大胆にアニメ化した『巌窟王』のコミック版。アニメ版は見逃してしまったので今回が初見。

 原作との一番の違いは、脱獄でしょうね。岩波文庫版の原作では、ほぼ一巻が獄中のシーンに当てられていたし、『ショーシャンクの空に』にも登場するくらい、脱獄シーンだけでも充分インパクトが強い作品でした。ところがコミック版は、そもそも脱獄じゃありません(^^; 獄中で絶望の闇に沈んでいたとき、ひと筋の光を目にして手を伸ばしたら、すべてが崩壊し、エドモン・ダンテスはモンテ・クリスト伯として生まれ変わったのでした。比喩なんだか、本当に何かが乗り移って生まれ変わったんだか、わからないです。

 いや、でも、文庫一巻分を数ページに漫画化するという不可能を可能にしてしまった途方もないシーンだと思います。

 中世風と宇宙風(SF風)とファンタジー風が入り乱れたファッションが、まったく違和感なく溶け込んでおります。これはアニメ(漫画)ならではですね。実写だとこんなにしっくりこないでしょう。いやでも伯爵の召使いベルッチオの服装はどうかと思うけどさ。

 原作では一人ずつ復讐されてゆくわけですが、漫画では三人とも一堂に会しているし、ダンテスの元婚約者メルセデスもすぐに伯爵の正体に気づいちゃいます。前記の脱獄の場面もそうでしたが、原作ではじっくりすぎるほどじっくり描いているところを、ぐぐっと凝縮して展開も早く飽きさせない仕組みにしてくれてるのでしょう。原作もあの長さなのに飽きたりはしないんですが、漫画は漫画でスピード感があってよろしい。
-----------------------

巌窟王 1
前田 真宏 / 有原 由良
講談社 (2005.12)
ISBN : 4063143996
価格 : ¥590
amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。

------------------------------

 HOME ロングマール翻訳書房


防犯カメラ