一年間の充電期間前最後の『メフィスト』。講談社ノベルス25周年の来年4月に新創刊だそうです。
「傘を折る女」島田荘司 ★★★★☆
――私がラジオの深夜放送を聞いていると、こんな話があった。雨の夜、傘を自動車に轢かせている女性を見た、というのだ。これは、結果を魔法のように突きつけるのではなく、御手洗が思考の過程を見せてくれた事件でもあった。
著者お得意の「御手洗パート+犯人側の手記または回想パート」の物語かと思いきや、今回は構成にもひと工夫ありました。最近の島田短篇は、内容とは無関係に著者が自分の主張を披瀝するというタイプの作品が多くて、是が非でも書きたいのはわかるけどミステリ短篇としてそれはちょっとないんじゃないのかな……と思ってたりもしたけど、今回の作品はその点も満足です。
内容はかなりとんでもない、島田作品史上でも一、二を争う恐ろしい女が二人(あるいは三人)も登場します。犯人にいちばん共感できちゃうんですけども……それでいいんだろうか。死んでくれてすっきりしてしまったんですが……(゚д゚;)。いやこの被害者の女は凄いね。こういう精神構造の人って実際いるよなー。ほとんどホラーです。心理ホラー。あまりにも気持ち悪くてここは飛ばし読みしてしまった。心臓の悪い方にはお薦めできません。
御手洗の推理は「九マイルは遠すぎる」みたいで面白かったです。御手洗ものにしては地味な、蓋然性の積み重ねによる推理なんですが。「頭の中のOKランプが灯っている」天才型推理の方が好みではあります。
「論理の蜘蛛の巣の中で 23」巽昌章
――中井拓志『獣の夢』、稲生平太郎『アムネジア』、井上夢人『the TEAM』、三津田信三『厭魅の如き憑くもの』。あらすじを読んだだけで『獣の夢』と『厭魅〜』を読む気になれないのはもう年なのだろうか……。いかにも最近のミステリっぽく、現代とか因襲とかを誇大妄想気味に描いていそう。
「Mephisto's Quorum」道尾秀介×佳多山大地
――インタビューの内容云々よりも、ホラーサスペンス大賞の選考委員に唯川恵がいる理由がわからんぞ。小池真理子が務めるような感じに近いのだろうか。何だかな……。
「少名年探偵虹北恭介の冒険―心霊写真―」はやみねかおる原作・やまさきもへじ漫画 ★☆☆☆☆
――運動会の写真を見て由香が悲鳴をあげた。窓に映った顔のような影。心霊写真なのか……。
だいぶ前に原作も『メフィスト』に掲載されてましたね。はやみねかおる氏の作品は、『ぼくと未来屋の夏』が大人が読んでもバランスがよくて、対象年齢を下げた『怪盗ピエロ』もバランスがよくて、一連の子ども向けミステリシリーズがちょっとバランスが悪い。怪人二十面相が世界平和のために世間を騒がす話があったが、それに近い。そのくせトリックだけは本格的だからバランスが悪くなる。この虹北恭介シリーズなんかは、世界平和のためですらなく小学校生活のためだったりするのだから、二十面相ばりのはったりがますます浮いてしまう。おまけに本篇は漫画として、由香の一人称から始まるのはどうよって思ってしまいました。
「茜色の風が吹く街で」高田崇史 ★☆☆☆☆
――全共闘。三島の死。あさま山荘事件。そしてぼくらは高校に進んだ。その高校で、試験の問題用紙が盗まれるという事件が起こった。
全共闘世代が描く暑苦しい青春ものもいやだが、同世代が描くライトな全共闘時代ものもいやだ(^^;。戦争ものくらい昔の話になると、リアルかどうか時代考証はどうかとかはあまり気にならないのだけれど、全共闘となると当時の世代が今も現役で小説を書いている以上、そちらと比べて違和感がありありなのである。
「変奏曲〈白い密室〉―神麻嗣子の超能力事件簿―」西澤保彦 ★★★★☆
――優子があたふたとトイレから飛び出してくるのとチャイムが鳴るのがほぼ同時だった。かをりが廊下に立っている。知人の結婚披露宴の余興のために、楽器を練習しに香取条治の家に集まるのだ。メンバーがぞくぞくと集まってきたが、肝心の条治の姿だけが見えなかった。
久しぶりに読んだ〈チョーモンイン〉もの。すっかり設定を忘れていたので、終盤になってようやく、超能力ありの世界設定だったんだと思い出した。いつのまにか新キャラも出てる。神余響子。あんまりキャラに萌えないわたしとしては、神余みたいにぽんぽん話を進めてくれたほうがテンポよくてありがたい。一見解釈不可能な時間の齟齬が、たった一点修正するだけで単純なアリバイものに変じてしまう怒濤のような解決編が好きだ。
「函に入ったサルトル」朝暮三文 ★☆☆☆☆
――男は駅に着いた。奴らの手が伸びるのも時間の問題だ。早く相棒にブツを渡さなければ。そのとき古本屋が目に入った。「この店で一番高い本は?」
なんちゃって哲学はどうでもいいんだけど、でもそれをなくしたらただのクイズだものね……。
「札幌落雪注意〜酩酊混乱紀行番外編〜」恩田陸 ★★★★☆
――タイトルにもなっている「落雪注意」を見つけてしまう著者のミステリマインドに拍手(パチパチ)。
「蜘蛛の糸は必ず切れる」諸星大二郎 ★★★☆☆
――それは憐憫というより、ひとつの思いつきから発していた。こうして釈迦牟尼は小さな蜘蛛の糸を血の池へと垂らした。
著者がいたるところで開陳している古典の“再話”。地獄の仕組みが簡単にわかるエンターテインメントだと思えばよい。
「蒼ざめた星」有栖川有栖 ★★☆☆☆
――事件が起こったのは三日前の夜。UFO観測をしていた乙宮が死体となって発見された。
デビュー前の習作を公開しようという企画「ゼロ番目の事件簿」トップバッター。企画がこのあと続くのか単発で終わるのかは不明。基本的に有栖川さんはロマンチストなんですねぇ。ミステリとしてどうかとかよりもそっちの青臭さの方が気になる。この点に関しては今も昔も変わってないけどね。
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