『続・妖怪図巻』湯本豪一編著（国書刊行会）★★★★☆

　タイトルは『続・妖怪図巻』だけれど、編者は『妖怪図巻』［bk1・amazon］の多田克己氏ではなく、『妖怪百物語絵巻』［bk1・amazon］の湯本豪一氏。『妖怪百物語絵巻』は「蕪村妖怪絵巻」目当てで買ったんだけれど、目当て以外の作品は子どもの落書きみたいでがっかりだったので、本書もショージキ不安だった。でも杞憂でした。満足です。

　『続』と題されているのは、石燕「百鬼夜行絵巻」と「化物づくし」の二篇に、『妖怪図巻』と共通の妖怪が描かれているからでしょう。

　石燕の「百鬼夜行絵巻」は、『画図百鬼夜行』［bk1・amazon］の妖怪たちをカラーで見られるところがポイント。『画図』ファンなら必見です。単に色を塗ったわけじゃなくて、もちろん別個の作品なので、妖怪たちのまた別の顔が見られたりもする。図鑑的な綴り本ではなく絵巻なので、あるようなないような（実質ほとんどないですが）ストーリーも楽しめる。場面場面から読者それぞれが、水木しげる作品のように新たな妖怪物語を妄想することも可能です。

　「化物づくし」Ｂ本とＣ本は、『画図百鬼夜行』『妖怪図巻』にも登場する妖怪を含んだ作品集。

　「化物づくし」Ｂ本は全体的に素人の模写といった趣があります。手の目やぬらりひょんなんかは明らかに石燕の流用ですし。色とか輪郭線とかものっぺりした印象で素人っぽい。石燕作品には存在しない妖怪たちも描かれていて、それらの妖怪たちは石燕作品とは別の原本から模写した可能性もある（絵が稚拙だからこそ、画家のオリジナルではなく模写の可能性の方が高いとも思えます）。だから、いまだ発見されていない原・妖怪絵巻の一端をかいま見せてくれる作品集なんじゃないかと思うわけです。ぬっぺっぽうは影絵の遊び絵を思わせます。ぬっぺっぽうの影かと思ったら、実は耳たぶの大きなおじさんの影でした〜というやつ。輪郭は合ってないけど。

　「化物づくし」Ｃ本は、石燕や狩野派絵巻に比べると、全体的に簡略化したような印象を受けますが、筆はおそらく絵心のある人の手によるものでしょう。ぬらりひょんやぬっぺっぽうは簡略化もはなはだしい（＾＾；。だけど緻密な石燕画よりは、よっぽどぬらりひょんのぬらりくらりとした様子やぬっぺっぽうのぬっぺっぽうな様子をうまく表現しているんじゃないでしょうか。「とうびょう」と「おそう」だけは本書だけに見られる妖怪。「おそう」は名前から推すと、うわんやがもうのように「お化け」の別称のような気もします。「とうびょう」は蛇の妖怪。

　「化物づくし」Ａ本は、いわゆる駄洒落妖怪・ことば遊び妖怪が多い。あんまり好きなタイプの妖怪ではない。「おどろおどろ」とか「うわん」とかも、系統としてはこれに入るのかもしれないことを考えると、画家の思いつきの産物だと一概に切り捨てることもできないのだが。まあ石燕の「手の目」なんかも石燕創作のことば遊び（？）妖怪なわけだし。「まっぴら」とか「うやうやし」みたいな何だかなな妖怪もいる反面、上半身と足許の描かれていない「なんじゃか」とか、石燕の器物系妖怪を思わせるような面構えの「波蛇」とか、単なる思いつきとは思えないような妖怪もいて油断がならない。

　後半は純粋な絵巻物。

　「百鬼夜行之図」は中国風といおうかなんだか仏教絵巻みたいな、一見して“濃い”絵巻物。それだけにインパクトは絶大。妖怪と神々の戦いを描いているそうです。まるで異国の妖怪のような出で立ちのなかに、ちらほらと見慣れた付喪神の姿も。妖怪というより地獄の獄卒のようなものもいるし、色遣いは派手だし、いろいろ迫力のある賑やかな絵巻です。絵は好みではないが力作。

　「妖怪退治絵巻」は絵柄も構図も絵巻物の伝統どおりの、いかにも絵巻物らしい絵巻物語。百鬼夜行絵巻のような妖怪図鑑的な絵巻というよりは、土蜘蛛草紙やなんかのように妖怪退治譚を描いた絵巻です。妖怪をディスプレイするというよりは、結果的に妖怪がたくさん出てくるような作品。好きなタイプの絵柄。水木しげる的というか石燕的というか。わたしの頭の中に、妖怪とはこういうものだという刷り込みがなされてしまっている。

　「神農化物退治絵巻」は黄表紙的というか御伽草子的というか、妖怪退治ネタの笑い話。絵は下手。下手なりに味のあるヘタウマ漫画。このぎょろり目の人間たちは絵巻物の流れを汲むものではなく、江戸漫画の流れからきたような滑稽絵です。妖怪退治が描かれているというだけで、妖怪たちの姿にはあまり特徴がありません。屁に吹っ飛ばされる兎みたいな妖怪が、D［di：］の絵みたいで印象に残った程度。

　最後はずっこけたけど全体としていい。見る人によっては、同じ妖怪ばかりを描いた作品が収録されている『妖怪図巻』より、バラエティに富んでいる本書の方が楽しめるかもしれない。
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