『スインギンドラゴンタイガーブギ』1、『スキップとローファー』4 ★★★★★

『スインギンドラゴンタイガーブギ』1 灰田高鴻(講談社 MORNING KC)
 ――昭和26年。十代の少女「とら」は、6年前に疎開先の福井で姉・依音子がベーシストと過ごしているのを見てベースの魅力に打たれた。だが依音子は川で溺れ心神を喪失し、ベーシスト・オダジマタツジは姿を消した。姉が大切に思っていたオダジマタツジを見つければ姉も正気に戻ると信じて、とらはオダジマを探しに東京に出た。路上でベースの弾き語りをして手がかりを探していたとらは、通りかかったベーシストのベースを壊してしまったことがきっかけで、かれらと米軍基地のステージに立つことに……。

 「しろい花」がモーニング主催のちばてつや賞の第74回に入選した著者の初連載作品です。デビュー作はガロ系の絵柄でガロっぽい幻想的な作風でした。本書では一転してモダンなジャズが題材ですが、良い意味でしょんべん臭い絵柄が、戦後の日本という時代の空気にぴったり合っています。とらちゃんは音楽に関しては素人ですが、天性の歌の才能によってバンドになくてはならない存在となります。

 単行本を買おうかどうしようか迷っていたのですが、レコードジャケットを模したカバーワークに一目惚れしました。Apple music と Spotify で登場曲や同時代の曲が試聴できるようになっていますが、そちらではまさにレコードジャケットのように正方形にされていました。

 新連載時のカラーがそのまま白黒につぶれて印刷されているのではなく、ちゃんと白黒原稿に直されて収録されています。(恐らく)デジタルだとこういうことも以前ほど難しくはないのでしょう。

 タイトルのドラゴンは登場人物の一人、龍治(タツジ)から。タイガーは同じく主人公のとらから採られているようです。とらの本名・於兎も虎の異名だそうです。とら本人は「寅年の生まれだから、お虎」だと説明しており(p.39)、寅年生まれだとすると昭和13年生まれの13歳ということになります。幼すぎる気もしますが、昭和20年の回想シーンはまだ幼児のような外見ですし、引き合いに出されている美空ひばり(p.21)が昭和12年生まれなので、実際13歳でもおかしくはないのでしょう。

 米兵の「SWEETS」という台詞に「アメちゃん」という訳語が当てられ、その訳語に対して日本語で「アメちゃんはそっちじゃんか」と反応していたり(p.12)、同じく米兵の「I'VE FALLEN IN LOVE WITH YOU!!(キミにガチ恋してしまったんだ!!)」(p.159)にも「ガチ……」と日本語で反応するなど、対訳をルビのように活用しているのが斬新でした。
 

『スキップとローファー』4 高松美咲(講談社 AFTERNOON KC)
 ――文化祭のミュージカルに出場することになった志摩と、生徒会とのかけもちで大変そうな美津未。自分を演じる癖があり、逃げ出した作中人物に自分を重ねる志摩だったが、文化祭当日、見学に来た母親と弟が、梨々華たちと鉢合わせし……。

 これまでは女子の心理描写に比重がありましたが、この巻では志摩くんの心情が掘り下げられています。自分のキャラを気にしすぎて正常な判断ができなくなってしまったり、『サウンド・オブ・ミュージック』の作中人物ロルフと重なることで自分の感情に気づけたりしたことで、最終的に前に進むことができました。美津未だけでなく兼近先輩もきっかけになっているのがよかったです。二人とも自分をしっかり持っているキャラだから。志摩の家庭の事情というのもようやくはっきりしました。

 志摩くんに慰められて前向きに復活する美津未が本当に格好いいです(p.51)。半分は大真面目で、半分は照れ隠しと志摩くんを心配させまいとする気持でわざと気取ったポーズを取っているのだと思うのですが、こういう場面でこういう態度を取れるのがやっぱり美津未です。志摩くんの目には美津未がきらきらと輝いて見えていましたが、そう見えているのは志摩くんだけじゃありません。「多少ド派手に転ぶことが多い人間だけど/そのぶん起き上がるのもムチャクチャ得意なんだから!」という台詞も恰好いい。

 ライバルや敵役が仲間になったらただのモブ、というのはよくあるパターンですが、ミカちゃんは相変わらずの屈折した面倒臭い性格で安心しました(pp.18~19)。志摩くん中心の巻のなかにさらっとこういう描写を入れてくるのが上手いなあと思いました。
 

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