海外作品の場合、掲載されるのは数ある中から編集者が選んだいわば傑作集なわけだが、【日本作家特集】はと言えば書き下ろしなわけで、どっちに当たりが多いかは自明のこと。といって、現役日本作家の近作傑作集を雑誌でやられても困るしなぁ……。
「盗まれた昨日」小林泰三★★☆☆☆
――人間から短期記憶が失われた世界。日常生活には携帯型メモリが不可欠だった。レポートをまとめている最中、わたしはふと違和感を覚えた。メモリがない。
魂ということであれば今月号に採録のロボットともかかわるテーマなんだけど、「記憶できない」ことの説明にページを費やさざるを得なかったせいで、「記憶できない」ことから必然的に導かれる「記憶と記憶装置(魂)」のことが駆け足というか混同しているというか、とってつけた感じだった。
「羊山羊」田中哲弥★★☆☆☆
――部下である佐古山の妻が羊山羊に罹患した。初期症状としては人格が変わったり奇行に走ったりし、やがて病気の進行とともに身体的変化が現れるとされる。
こういうばかばかしい話をばかばかしく書かずにお茶の間的な筆致で描くと、ばかばかしさだけ浮き上がってしらけてしまう。最後がちょっといい話というかしんみり系になるのもかえってマイナス。
「陽根流離譚」森奈津子★★★☆☆
――ジェンダー研の新入会員である千聡が遭遇したのは、男性器型の異星人だった。千聡は、レズビアンの教子、オナニストの春香、ニンフォマニアの園美、ゲイの源次たちジェンダー研の先輩に異星人を引き合わせようとするが……。
覚えているかぎりでは森氏の作品は「女神の箱庭」(『S-Fマガジン』2006年05月号)と本篇しか読んだことがないんだけれど、ジェンダーの問題を過度に掘り下げずにガジェットとして使う印象かな。結果ジェンダーに興味のないSFファンにも楽しめる内容になっている反面、まじめに考えようとすると「どうよ?」てな話だったりする。
「口紅桜」藤田雅矢★★★☆☆
――名木「口紅桜」の根元には、江戸時代に退治された鬼の死体が埋まっているという
特集の四人のなかでは唯一未知の作家さんでした。植物の専門家らしい。「桜の樹の下には」を本歌取りもとい逆手取りした作品。もっと伝奇っぽかったり幻想っぽかったりするとよかったんですが、わりとさらっとあっさりしてます。
【日本作家特集】はここまで。
「My Favorite SF」(第14回)坂本康宏
山田正紀『神狩り』。
「新たなモノリス? 〈時の眼〉の謎」
「アキバ・ロボット運動会&交流会」誌上採録
「SFにおける人間とロボットの愛の歴史」山本弘
山本氏ははじめのうちこそアキバに媚びつつロボットSFの歴史を振り返っていましたが、だんだん核心をついてくる。星新一『ボッコちゃん』について「相手の言ったことを、語尾を変えて返すだけで会話が成立しちゃうんですね。今の技術ならボッコちゃんは充分作れるよなあと思ってしまいました」とか。アシモフのロボット三原則「危険を看過することによって人間を傷つけてはならない」について、「よく考えてみると不可能なんです」「これから戦場に出征する兵士がいると知った場合、ロボットはそれを守らなくちゃならなくなる」。「「危険」という概念も非常に広く解釈できます。車に乗るだけで危険かもしれないし」とか。そして最終的には、心を持つ、ということについて、ロボットの叛乱やチューリング・テストや『鉄腕アトム』を例に懇切丁寧に解説してくれます。
「ロボット研究の総合プラットフォームを求めて」立花隆×妹尾堅一郎×早川浩
山本氏が広く「心」を持つロボット(SFとしてのロボットと言いかえられるかな?)について話していたのに対し、こちらは機能的な現実のロボットについて。全自動洗濯機はロボットだ、有人宇宙船より無人宇宙船だ、などなど夢もへったくれもない(^^)。そう思う一方で、介護用パワードスーツとか、動かそうと思っただけで動かせる義手とか、まるっきりのSF世界がすでに現実になってもいるのだけれど。
「日本SF全集 [第二期・第三期] 目録&編集後記」日下三蔵
鏡明が入手困難なのだったら、今月号の日本作家特集に再録してほしかったなぁ。
「歓天喜地」カイエ綺花《SF Magazine Gallary 第14回》
ペンネーム通りのいかにもタンビーな作風です。
「京都国際マンガミュージアム開館レポート」天野講堂
「MEDIA SHOW CASE」矢吹武・小林治・添野知生・福井健太・宮昌太郎・福永裕史
◆Wii自体よりもバーチャルコンソールが魅力だ。スーパーマリオがやりたいよぉ。
「SF BOOK SCOPE」石堂藍・千街晶之・長山靖生・他
◆今回風野春樹氏が紹介しているのは、三崎亜記と森見登美彦の新作に日本ファンタジー大賞作品と、モロにど真ん中のストライクである。三崎亜記『失われた町』、森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』、ファンタジー大賞受賞作仁木英之『僕僕先生』、優秀作堀川アサコ『闇鏡』。
◆林哲矢氏の紹介作からは、叢書から二冊。〈奇想コレクション〉コニー・ウィリス『最後のウィネベーゴ』、〈新・世界の神話〉ヴィクトル・ペレーヴィン『恐怖の兜』。
◆笹川吉晴氏がおまけみたいに紹介している(うえにタイトルを間違ってる)夢枕獏編『琵琶綺談』。なんてマニアックなアンソロジーなんだ(^^)。気になったが収録作を見てみると、赤江瀑「春喪祭」・岡野玲子「博雅朝臣宣耀殿の御遊にて背より玄象の離れなくなること」・小泉八雲(平井呈一訳)「耳なし芳一のはなし」などなど、この手の作品に食指を動かす人なら既に読んでるよ……的な内容だった。ほかのメンバーは是が非でもってほどじゃないしなぁ。小松和彦氏の書き下ろし評論のためだけに1680円はキツイしなぁ。うーん……。
「小角の城」(第9回)夢枕獏
「罪火大戦ジャン・ゴーレ」(第25回)田中啓文
「おまかせ!レスキュー」104 横山えいじ
「デッド・フューチャーRemix」(第59回)永瀬唯【第11章 きみの血を 第6滴】
これまでは人ごとみたいに、SFだなぁって読んでたんだけど、ついに日本が舞台になった。しかも1960年代って「現代」だよねえ。まだ生まれてはいなかったけど、「遠い昔」とは思えないよなあ。そんな時代にこんな頭の悪いことしてたのかぁ……。
「大森望のSF観光局」02 追憶のSFファンジン黄金時代
今回もちょこっとだけ翻訳について載ってる。まあ翻訳SFについての話題が多くなる(と予想される)以上、翻訳そのものについての話になるのも自然な流れだとは思う。巻末の執筆者紹介で『雪降るイヴの物語』がコニー・ウィリス原作だと知ってあわててチェック。
「私家版20世紀文化選録」98 伊藤卓
映画『いちご白書』、小説『未知の来訪者』ジョン・タウンゼント、漫画『ひぐらしの森』内田善美。
「サはサイエンスのサ」144 鹿野司
原作ものでまたSF。しかも原作はミステリ作家のP・D・ジェイムズが書いたSF。B級のキワモノかと思っていたけど、著者によればどうやら傑作らしい。
「家・街・人の科学技術 02」米田裕
今回はデジカメ。
「センス・オブ・リアリティ」金子隆一・香山リカ
◆「ウルトラ短周期惑星現る」金子隆一……公転周期が0.4日ってすごいな。地球時間で0.4日ってことだよな。
◆「『パプリカ』を見て思ったこと」香山リカ……精神科医はやはり『パプリカ』を見てもこんなことを考えてしまうのですね。
「近代日本奇想小説史」(第55回 人類学の進歩と未来予測)横田順彌
今回はまともだぞ。次回に続くための伏線とはいえまともだぞ。今まで紹介されてきた作品のなかには、酔っぱらいのたわごとを聞いていた方がまだましってようなのもあったしなあ。なんてまともで素晴らしいんだ。
「MAGAZINE REVIEW」〈F&SF〉誌《2006.7〜2006.10/11》香月祥宏
何と言ってもル・グウィンとティプトリーの往復書簡「親愛なるスターベアさま」(Dear Starbear: Letters between Ursula K. Le Guin and James Tiptree Jr.)。
「避難所」スティーヴン・バクスター/中村融訳(Refuium,Stephen Baxter,2002)★★★☆☆
――おれは異星人の船〈バブル〉で、広漠たる星海を旅した。いくつもの銀河を超えて……。リード・マレンファントは一つの疑問を持っていた。星々は何の役に立つのか?
「エイリアンが存在するなら、なぜ地球にやって来ないのか?」という「「フェルミのパラドックス」に関する思弁を繰り広げた宇宙小説」の番外編ということだが、よく言えばエンタメ悪く言えばB級といった趣。
『怨讐星域』第四話「ノアズ・アーク」梶尾真治 ★★★★★
――ノアズ・アーク号が三万人を乗せて地球を発ってから七ヶ月が過ぎた。ストレスから自殺者も増え始めた。だがアジソン大統領にはほかに気になることがあった。娘のナタリーが妊娠していたのだ。宇宙船内でもそれについての噂が飛び交っていた。
女は、というか母はしたたか、と思ってしまう。しかし問題は、これは世代宇宙船だということで、テレポート組と宇宙船組が出会うころには、彼らの子孫しか残っていないのだ。はたしてどういう邂逅になるのか。苦悩や希望も受け継がれるものなのか。子々孫々と恨み続けることができるのか。
「SFまで100000光年 42 黄昏のひとりぼっち」水玉螢之丞
「MEDIA SHOW CASE」の宮昌太郎氏に続いて水玉氏もWii&『ゼルダの伝説』について。
編集後記によれば、いよいよ〈プラチナ・ファンタジイ〉が再開されるそうです。クリストファー・プリーストやケリー・リンクの最新作をはじめ、精選した海外文学をお届けしますだそうです。いや〜すばらしい。
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