「おとぎ話調、童話調は採用しない」とはいっても、もとが誰かに語り聞かせるスタイルなのだから限界があって、なんだけっきょく童話調じゃねーかよと思ってしまった。
ただ読みやすくはある。
そして読みやすいがゆえに、嘘くささが浮き彫りになってしまう。
王子さまがことあるごとに「大人って変わってるな」と言うのがわざとらしいんです。無邪気な子どもが言うセリフとは思えません。これは、ちゃんとわかっている大人がわかってない子どものふりをするとき言うセリフでしょう。(内藤濯訳と青空文庫訳を確認してみると、この部分に関してはうまくさりげなく自然に訳してありました)。
蛇に咬まれるシーンも微妙なのだ。蛇に咬まれると死ぬとわかったうえで「死んだみたいに見えると思うけど、でもそうじゃない」と言っているようにしか読みとれない。でもそれって、無邪気に「大人って変わってるな」と言っていた王子さま像と矛盾してません? 大人のレトリックですよね。一年のあいだに大人のずるさを身につけたのか。それとも結局「大人って変わってるな」の方もやっぱりカマトトだったのか。いやわたしが裏読みしすぎで、王子さまは本心から自分は死なないって信じてたのかもしらんが。しかしそれじゃピュアを通り越してアホの物語だろうよ。
嘘くさくて白々しい王子さまのコメント(及び作者が顔を出すコメント)さえなければ、風刺作品としてけっこう面白い作品なのだが。実際、いろいろな星の住人たちやキツネの話はとてもすばらしくていつまでも記憶に残ります。
ついで。表紙は〈古典新訳文庫〉シリーズの統一デザインだけど、中身はあのイラストなんで心配無用。
砂漠に不時着した飛行士の「ぼく」。その前に突然現れた不思議な少年。ヒツジの絵を描いてとせがまれたぼくは、ちいさな星からやってきた王子と友人になる。王子の言葉は、ずっと忘れていた、たくさんのことを思い出させてくれた。「目ではなにも見えないんだ。心でさがさなくちゃ」。(裏表紙あらすじより)
『Le Petit Prince』Antoine de Saint-Exupéry,1943年。
------------------