「砂漠の戦い」ホセ・エミリオ・パチェーコ/安藤哲行訳(La Batallas en el Desierto,José Emilio Pacheco)★★★★☆
娼婦と罵られるようなお妾さんを、そうとは知らずに恋してしまったために、周りから性的に早熟な危険人物だとレッテルを貼られる少年の物語です。何も知らない少年の目から見ると、「誰でも恋をするってこと」が大騒ぎになる理由がわからずに、描かれているのはまさに異世界のよう。大人になった少年が回想する形で描かれる小説は、巻頭に引用されている「過去は外国である。そこでは人はいつもと違う振る舞いをする。」というハートリーの言葉に相応しいものですが、日本人からすると文字通り外国なので、どこまでが「過去」フィルターなのかがわからないところもありました。
「子犬たち」マリオ・バルガス=リョサ/鈴木恵子訳(Los Cachorros,Mario Vargas Liosa)★★★★☆
犬にちんこを咬まれて〈ちんこ〉とあだ名された少年の、ちんこが役に立たないがゆえの思春期の悲劇を、友人たちの現在進行形の語りの寄せ集めでコラージュした作品です。〈ちんこ〉というユーモラスでさえある呼び名に加えて、無茶な波乗りをしたり車で暴走したりするような子どもっぽいとすら言えるグレ方が、いっそうの悲哀を誘います。
「二人のエレーナ」カルロス・フエンテス/安藤哲行訳(La Dos Elenas,Carlos Fuentes)★★★☆☆
奔放――というよりは不思議ちゃんな妻エレーナにふりまわされずに日々を送る夫が、それでも若々しい義母エレーナとの会話を経て一息ついて、妻の魅力も改めて再発見もする。「リンゴ・スターのような髪型」「蜂の巣みたいな髪型」というような、むしろイメージがわかない譬喩が気になります。「ビートルズのような髪型」じゃあ駄目なんだ……?
「白」「青い花束」「正体不明の二人への手紙」オクタビオ・パス/鼓直・野谷文昭訳(Blanco/El Ramo Azul/Carta A Dos Desconocidas,Octavio Paz)★★★★☆
言葉をコラージュして再構成したような詩「白」。短篇集『鷲か太陽か?』から、夜道で何者かに目を望まれる「青い花束」と、代名詞の迷宮のような「正体不明の二人への手紙」の二篇。
「グアテマラ伝説集」ミゲル・アンヘル・アストゥリアス/牛島信明訳(Leyendas De Guatemala,Miguel Ángel Asturias)★★★★☆
「伝説集」とはいってもプリミティブな伝説そのものではなく、かなり幻想的なタッチの作品集です。