『幻想と怪奇』2【人狼伝説 変身と野性のフォークロア】(新紀元社)

 表紙イラストは第1号に続きひらいたかこですが、普段の作風とは違い狼がリアルなので気づきませんでした。

「A Map of Nowhere 02:「人狼」のハルツ山地」藤原ヨウコウ

人狼映画ポスター・ギャラリー」

人狼野村芳夫

人狼(『人狼ヴァグナー』第十二章)」ジョージ・W・M・レノルズ/夏来健次(The Wehr-Wolf (Wagner, the Wehr-Wolf, Chapter 12),George W. M. Reynolds,1846)★★☆☆☆
 ――森の中で一人の若者が悶えのたうっている。見目よかった顔が縦長にのび、麗しかった衣装が粗い毛の密集した獣皮に変わり、一匹の巨軀の狼が出現していた。人狼はすさまじい速さで森を駆け抜け、たちまちのうちに開けた平原に出た。歩いていた僧は凶暴な怪物の通過による剛力に突かれて倒れ込んだ。

 これはさすがに歴史的価値しか感じられませんが、疾走感はなかなかのものでした。
 

「狼人間」リーチ・リッチー/森沢くみ子訳(The Man-Wolf,Leich Ritchie,1831)★★★☆☆
 ――ケリドルーの騎士は美しいベアトリクスを愛していたが、生来の直情型ゆえに侮辱されたと思い込み、別の女と結婚した。妻を捨てベアトリクスを娶るという罪を抱いたせいで、夢で見たとおり狼に変身してしまった。ケリドルーの奥方は神父と謀り、狼に変身した騎士の衣服を隠して人間の姿に戻れないようにしようと企んだ。

 二人の神父が牽制し合っていつまでも行動を起こせないところや、処分した衣服が戻ってくるところなど、スラップスティックの味わいがありました。人狼とは言いつつホラーというよりは、ドタバタ中世騎士道物語です。
 

「黄昏に立つ母は狼」澤村伊智
 エッセイのタイトルは比嘉姉妹シリーズの没ネタより。読みたかったけどなあ。
 

「ランニング・ウルフ」アルジャーノン・ブラックウッド/岩田佳代子訳(Running Wolf,Algernon Blackwood,1920)★★★★☆
 ――ハイドはカナダの森に魅せられた。面白いように魚が釣れるため止め時を失い、いつしか闇夜になっていた。焚き火の向こうに気配がする。森林狼だ。燃え木を投げつけても逃げ去ることはなく、朝になっても座っていた。釣りを再開しても、狼は見つめていた。この態度は犬、いや、まるで人間じゃないか。興味を惹かれたハイドが近づいてゆくと、狼はゆっくりと歩き出した。ハイドがついてきていることを確かめながら。狼は茂みの中に入り、地面を掘るしぐさをした。

 新訳。ブラックウッドという人は作風の幅が広いというか、とらえどころがありません。人骨が出てきた時点でおぞましい話になるのかと思いきや、先住民の言い伝えにまつわる骨太な作品でした。
 

「ある探検家の死」H・R・ウェイクフィールド/植草昌実訳(Death of a Poacher,H. Russell Wakefield,1935)★★★☆☆
 ――元精神科医の私は、友人に頼まれサー・ウィロビーの症状を確かめることになった。サー・ウィロビーはヴァンパイア伝説に惹かれ、アフリカでマサイ族の居住地を訪れていた。マサイは勇敢だがハイエナだけは怖れていた。シマウマの群が殺到したため狩りに出ると、あちことによくわからない痕のついたシマウマの死骸が転がっていた。見たことがない四本指の大きな足跡を見つけると、マサイの案内人たちの姿が消えていた。突然現れた虎ほどもある巨軀のハイエナを撃つと、倒れた巨獣は消え去り、そこに肌の黒い大男が現れた。

 狼ではなくハイエナというだけで不気味さが倍増します。何かの呪いなのかもともと棲息する化け物なのか、正体が不明なままなのも不安を誘います。
 

「屋敷の主人」オリヴァー・オニオンズ/高澤真弓訳(The Master of the House,Oliver Onions,1929)★★☆☆☆
 ――地所の所有者レイバンは、自分と従者とシェパードの平穏な生活に一切立ち入らないことを、その家を貸す条件にしていた。アンドリュー、ミッキー、イヴの三兄弟はいぶかりながらも借りることにしたが、兄が何か隠していることにイヴは気づいた。夕食に招待されたレイバンは非常識にも飼い犬も同席させた。ミッキーがレイバンの従者がインド帰りかどうかをたずねた途端、レイバンの表情が変わった。

 長めなのになかなか何も起こらないのでダレます。ただ単に変身するのではなく、入れ替わるという発想が新鮮かつ不気味でした。
 

菊地秀行インタビュー 銀幕の人狼たち」
 菊地秀行の思い出話がそのまま人狼映画の紹介になっています。
 

「魔犬」フリッツ・ライバー中村融(The Hound,Fritz Leiber,1942)★★★☆☆
 ――デイヴィッドがオフィスに行きタイムカードを押すと、受付嬢が顔をあげ、「あなたの犬の分も押さないの?」とのたまった。「犬だって? 犬なんて見当たらない」。デイヴィッドはトム・グッドセルに会いに行った。「現代都市の超自然的存在だって? たしかに、それは昔日の幽霊とはちがうだろう。それぞれの文化が幽霊を生み出すんだ。中世の大聖堂に灰色の影がうろついたのと同じことが、摩天楼や工場にも起きるだろう」。人狼の影を感じはじめたデイヴィッドは、都市から逃げ出すことにした。

 同じライバー「煙のお化け」のように、本作品でもまた都会の幽霊が描かれています。なるほど現代の都会で怪物ではない狼と触れるには動物園しかなさそうです。
 

「ピア!」デール・C・ドナルドスン/野村芳夫(Pia!,Dale C. Donaldson,1969)★★★★☆
 ――ハッチの主催するパーティにわたしは妻のマチルダと参加した。ハッチのボスである老ダントンが、オカルティストのチーヴス博士に命の危険があると警告された話をしていた。金目当てで結婚した若いピア・ダントンが「つまりわたしたちのなかに精霊がいると?」「より正確に言えば人狼だ!」。閉じ込められたわたしたちはどうにかしてチーヴス博士に助けを求めようとしたが、

 訳者が発掘した作品で、意外な拾いものでした。「変種第二号」『11人いる!』etc. 目指すべき相手を身内から探す疑心暗鬼のサスペンスは、読んでいる方も緊張感が途切れません。しかも【1人だけじゃない】というサービスぶりでした。
 

「闇はもう戻らない」ジェイムズ・ブリッシュ/植草昌実訳(There Shall be No Darkness,James Blish,1950)★★★☆☆
 ――ポール・フットは確信した。ニュークリフ家のパーティには怪物がいる。ピアニストのヤーモスコウスキの目が満月の下で赤く光っているのを見て問い詰めると、狼の姿になって姿を消した。精神科医のルンドグレンもフットの言い分を後押しした。狼憑きというのは松果体の病気であり、魔女の存在を利用してことを有利に進めるという。銀の弾丸を用意して仕留めることになった。

 パーティのなかに人狼がいるという設定は「ピア!」と共通しますが、こちらは正体がはっきりしています。人狼の特徴をこれでもか!というくらいに盛っていながら、【伝染する】という特徴をうまく言い落としているため意外性も生まれていました。人狼を狼憑きという病気だとしながら、体細胞も変化するし衣服も一緒に変化するというトンデモ説明をしたせいで、結局なんの説明にもなっていません。
 

「昼に着るのはドレスがいい 夜にあるのは牙が良い」斜線堂有紀

「森になる」井上雅彦

「老人とオオカミ」安土萌

「ゴミ箱をあさる」ニーナ・キリキ・ホフマン/田村美佐子訳(Dumpster Diving,Nina Kiriki Hoffman,1995)★★★☆☆
 ――あたしが仔犬好きだったらねえ。ゴミ収集箱の暗がりに、足をじたばたさせている生きものを見つけて、クレアはつい情がわいてしまい、コートのポケットにすべりこませた。明日、動物愛護協会かなにかに連れて行けばいいだけのことだ。翌朝、仔犬の姿はなかった。かわりに抽斗の中で丸くなっていたのは、ちいさな人間の赤ん坊だった。

 ブラム・ストーカー賞ネビュラ賞受賞作家。世界幻想文学大賞の候補に挙がったことも。夫にDV(というか洗脳)を受けていたという設定が現代的です。犬嫌いだと思い込まされていた夫を(たぶん)殺したあとで、子犬(人狼の子)を拾うという流れを見ると、まるで成長物語のようでもあります。
 

「おじいさまの画帳」スティーヴ・ラスニック・テム/圷香織訳(Grandfather Wolf,Steve Rasnic Tem,2010)★★★☆☆
 ――おじいさまは居間の椅子に座り、裏庭の芝生を見つめていた。「おじいさまは、絵を描くの?」アビゲイルが画帳を見つけて開いた。「おじいさま、上手ね!」「鍛錬を積んでいるからな」「教えて、おじいさま」。たちまち紙の上にハチドリ、キリン、ゴリラの姿が現れた。「今度は狼よ」「狼は描かないことにしているのだ」。アビゲイルは、おじいさまの肌が波打つのを感じた。チクチクしたものが、指の腹や手のひらを刺した。

 人狼の祖父が家族と過ごすために選んだこと。
 

「海外人狼小説リスト」

  


防犯カメラ