『不思議の森のアリス ダーク・ファンタジー・コレクション2』リチャード・マシスン/仁賀克雄訳(論創社)★★★☆☆

 マシスンは好きなはずなのだが、実際に★をつけてみるとなぜか点数が低くなってしまった。「生命体」とか「狙われた獲物」は訳がよければ★5つなんだけどなぁ。

「男と女から生まれて」(Born of Man and Woman,1950)★★★★★
 ――今日、お母さんはぼくをへどがでるものと呼んだ。おまえは忌まわしいものなのよといった。お父さんはぼくの手足を縛り上げベッドに寝かした。

 「男と女から生まれて」きたものとは、人間の子どもにほかならないわけだが、描きようによってはこんなにも不気味で得体の知れない存在になってしまうのかと愕然とする。小説の力を見たり。
 

「血の末裔」(Blood Son)★★☆☆☆
 ――ジュールズの作文がうわさにのぼったとき、頭がおかしいのだと近所の人々は決めつけた。ジュールズは吸血鬼になるのが夢だったのである。

 いや、これは人を選ぶなぁ。オレは笑ってしまったよ。モンスターに共感を寄せるティム・バートン風の作品というより、オチが用意されたショート・ショートだろうなあ。
 

「こおろぎ」(Crickets)★★☆☆☆
 ――夕食が済むと、かれらは湖に出て月を眺めた。不意に男が声をかけてきた。「あれを聞きました? こおろぎですよ。いいですか。あなたがたには意味もない雑音にしか聞こえないでしょうが、こおろぎはメッセージを送っているのです」

 なにも今現在簡単に入手できる『幻想と怪奇』で読める作品(訳者が違うとはいえ同じ仁賀編)を収録しなくても……。この作品はあまり好きでないからなおさらがっかり。まあモンスター好きなら偏愛するのかもしれないなぁ。こおろぎというよりこおろぎ型モンスターなのだ。
 

「生命体」(Being)★★★☆☆
 ――レズとマリアンはガソリンと水をもらいにその家に立ち寄った。男が水を取りに戻っているあいだ、裏庭の動物園を覗くことにした。レズは叫びをあげた。檻の中には人間がいた。

 噂のとんでも訳その1。「It」とかと同様、「Being」としか言いようのない不気味な存在を描いているのですが……。カタコト文体で展開される緊迫(感のない)サスペンス!
 

機械仕掛けの神」Deus Ex Machina)★★★☆☆
 ――剃刀で皮膚を傷つけたのが始まりだった。彼は錆色のオイルが首筋からどくどくと吹き出し、床に飛び散るのを茫然と眺めていた。

 自分だけが人と違う。自分だけがそれに気づいている。はたしてそれは宇宙人の陰謀なのか? SF定番の設定を用いた、ブラック・ユーモア作品。しょーもないと言えばしょーもないのだが(^^;。
 

「濡れた藁」(Wet Straw)★★★☆☆
 ――妻が死んで数か月後だった。ベッドに潜り込む。濡れた藁の匂いがする。なぜか納屋の絵が怖かった。ハネムーンのとき雨に降られ、納屋にいたことがあった。しかしどういう意味があるのか?

 なにも単純な罪と罰の物語にしなくてもよかったのに。全体を通してわけのわからない不気味な雰囲気が横溢しているだけに、ちょっとがっかりした。
 

「二万フィートの悪夢」(Nightmare at 20,000 Feet)★★★☆☆
 ――ウィルスンは目をしばたたき首を振った。飛行機の翼の上を這いまわるものがいたのだ。稲妻が閃き、それが人間であるのがわかった。

 ウィルスンが強迫神経症であるのは、物語が始まってからしばらくしたところで読者には知らされる。だからこれはSFとか超常ホラーというよりニューロティック・ホラーとしか読みようがない。だから読者は、このヤバイ男が問題を起こさないのか、乗客は無事なのか、というところにハラハラする。
 

「服は人を作る」(Clothes Make the Man)★★☆☆☆
 ――兄貴のことなんだ。もはや人間ではないんだよ。一流の男。最高の男だった。帽子さえかぶっていれば最高のアイデアが生まれた。ファッションのかたまりだった。

 これは要するに、「Clothes Make the Man」という英語の言い回しをわざと直訳してそのまま物語にしただけの作品です。もともとは「馬子にも衣装/人は服装で決まる」とかそんな意味。しかし日本語では初めっから「服は人を作る」と直訳せざるをえないので、意外性も何にもなく、ほとんど意味不明な作品になってしまった。
 

「生存テスト」(The Test)★★★★★
 ――テストの前夜、レズは父の勉強を手伝っていた。彼は八十歳。これは四回目のテストだった。「お父さん、しっかりしてください。それでは合格できませんよ」

 マシスンって実はこういう泣かせの物語がめちゃくちゃうまい。『奇蹟の輝き』とかになると思想的にイッちゃっててアレだったが、あれももっとくさいくらいの愛情ものにしていれば大名作になってたかもしれない。本篇なんかも、何もここまで究極の状況を作らなくても……というくらいにあからさまな設定を作ることで、父子の愛情がダイレクトに伝わってくる。
 

「狙われた獲物」(Prey)★★★☆☆
 ――アメリアはプレゼントの包みを解きながら靴を脱いだ。蓋を開けるとアメリアは笑い出した。そこには見たこともない醜い人形が入っていた。

 大森望氏が『S-Fマガジン』2007年01月号で苦言を呈していたとんでも訳。本篇にしても「生命体」にしてもサスペンスのある作品だから、訳が多少おかしくてもぐいぐい引き込む力はあるんだけど、それにしてもそういう作品ばかりに悪訳が目立つというのもヘンな話。やっぱり感情のない人形が襲ってくるのは怖い。怖いんだけどどろどろしてなくて乾いてるからいい。
 

「奇妙な子供」(The Curious Child)★★★☆☆
 ――車を停めたのはどこだったか。ちくしょう。思い出せない。今は自分の車さえ不確かだった。どこに駐車したんだ? 車? 頬がけいれんした。自分は車をもっていなかった。自分は――。

 SF的なつじつまがよくわからなかった。この人はどこからいつの時代にやってきたのだ? 都会のなかで失踪。安部公房みたいで好き。
 

「賑やかな葬儀」(The Funeral)★★☆☆☆
 ――モートン・シルクラインがオフィスで葬儀の弔花について思いをめぐらせていると、チャイムが鳴ってクルーニー格安葬儀社への来客を告げた。「ぼくの葬儀を執り行ってもらいたい」

 ブラック・ユーモアといえばブラック・ユーモアなんだけど、風刺とか何とかではなく、“そのまんま”というのがいかにもおかしい(^^;。モンスター好きマシスンの愛があふれています。
 

「一杯の水」(A Drink of Water)★★★★☆
 ――「喉が渇いたな」「水道管の修理中ですって」「牛乳があったはずよ」「それでいい」「あら、朝食で使い果たしちゃった」「フルーツは?」「明日買いに行くつもりだったのよ」「バーで飲んでくる」だがバーは閉まっていた。

 宇宙人ネタとかモンスターネタのパニックやサスペンスを日常ネタでやってみたんだろうけど、やはり不自然であるのは否めない。いやこれは笑うべきなんだろうな。深刻な話じゃなくてギャグなんだろうと思う。ニヤニヤしながら読んで最後に爆笑すればよい。
 

「生き残りの手本」(Pattern for Survival)★★★★☆
 ――タイプの音は終わった。また物語を完成させたのだ。リチャード・アレン・シャグリーは原稿を持って郵便ポストに向かった。アルはもう年だ。受け持ち区域をまわるのはこたえる。鍵を取り出しポストを開けた。顔に笑みが浮かんだ。シャグリーの物語だ。

 なんて自虐的な……(^^;。いや、売れっ子マシスンだから自虐ではないものの。おバカなアイデアをよくぞここまで面白い作品にしてくれました。絵的に想像すると楽しくて仕方がない。
 

「不思議の森のアリス」(The Disinheritors)★★★☆☆
 ――これから話すのは、最後まで残った人間たちのひとりで、夫のジョージ・グラディと一緒にピクニックに出かけた女性のことだ。アリスは一瞬棒立ちになった。森の入り口に家があった。こんな家いままでまったく見かけなかった。

 ラストをくだらないと取るか、マシスンのサービス精神と取るか。読み手の読書観が出ます。いや実際くだらないんだけど、微笑ましいというかよくやってくれたというか。邦題は適当につけたわけじゃなくて、実際どことなく『アリス』っぽい。
 

「不法侵入」(Trespass)★★★☆☆
 ――デイヴィッドは六か月のアフリカ滞在から戻ってきた。アンは何か言いたげだった。それでもためらっていた。「わたし、赤ちゃんができたのよ」夫の顔から血の気が引いた。「誰だ?」「誰でもないの」

 妊婦ホラーといえば反射的に『ローズマリーの赤ちゃん』ですが、本篇は母親の不安よりも夫の不安と嫉妬に重点が置かれています。不安と嫉妬のあまり追いつめられた人間を書くのもマシスンの得意とするところ。
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